●幾多の偶然と擦れ違いの結果。
フェンス越しから見える夜景。
噂で屋上からの夜景は綺麗だと聞いていたが、これほどまでとは思わなかった。
そんな場所に焔は、最を呼び出した。
今日、最にずっと、胸に秘めていた事を伝える為に……。
白く長い髪を揺らしながら、最は屋上にいた。
「何の用か知らんが、この日この場所とは、随分だな……」
そう言って最はその瞳を細める。屋上のフェンスを背にして座り、焔を見上げていた。
「……先輩が好き、です」
袴姿の焔。勇気を振り絞り、その言葉を口にする。
「………は?」
その焔のストレートな告白に最は思わず、声を出した。
訝しげな表情で、最はもう一度、口を開く。
「冗談だろう?」
「え?」
思わず焔も声を漏らす。
「馬鹿も休み休みに言え。男に告白するなんて、冗談としか思えな……」
「ち、違いますっ!!」
焔は必死に否定する。
「冗談じゃないですっ、その、先輩を驚かせてしまった事は謝ります。でも……でも、この俺の気持ちは嘘も冗談もありません。こんなにも、先輩に狂わされて、苦しくて、でも、嬉しくて……ああ、俺、何言ってるんでしょう。とにかく……」
息を大きく吸い込んで、もう一度、焔は最を見た。
「俺は本気です」
その焔の瞳は冗談を言うものではなく、戦いに挑むような、そんな真剣さを感じさせた。
最はそんな焔の瞳を見つめて、そして、答えた。
「付き合ってやらん事も無い」
「本当ですか!?」
その焔の言葉に最は静かに頷く。
「……何度も言わせるな、馬鹿が」
ほのかに頬を染めながら、最は僅かに微笑んだ。
気づいていないわけではなかった。
この日、何故、焔に呼ばれてここに来たのか。
それは焔からの誘いだったからだ。
焔が自分を見る瞳が変わったのはいつだっただろうか?
それに気づかない振りをしていたのはいつのことだろうか?
そのときから、既に二人の心は決まっていたのかもしれない。
かしゃんとフェンスが音を立てる。
感極まった焔が最の手をフェンスに押さえながら、顔を近づけていく。
「大好きです、先輩……大好き」
幸せそうに微笑んで、焔は自分の唇を重ねた。
最もその焔の体を抱き寄せる。
それが、答えだと言わんばかりに……。
フェンス越しから見える夜景。
焔の瞳にそれは、美しく何時までも残り続ける。
「夜景が……綺麗ですよ」
「そうだな……」
忘れられない、大切な想い出として………。
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