●潦家のくりすます
「〜〜〜♪」
クリスマスイヴの夕方、とものは自宅で、部屋を飾るために輪っかの飾りを作っていた。
姉が敬虔なクリスチャンといえ、彼女の家は決して豊かではない。
それでも、せめて飾りくらいはと、せっせと内職に励むうち、表の方から声がする。
「あ、ふろいらいんのおねーさんだ!」
声の主が誰なのかはすぐにわかる。とものが今夜のパーティに招いた、ヴァナディースその人に違いない。
「いらっしゃい!」
部屋には、すっかり準備を整えたコタツが鎮座し、ブッシュド・ノエルをはじめ、潦家のクリスマスでは定番のメニューが並んでいる。
「日本のクリスマスって、こんな感じなのね」
そんな部屋の様子を、興味深そうに見回すヴァナディース。日本の事をほとんど知らない彼女には、とても新鮮なようだ。
「……あ、そうだわ」
とものを真似してコタツの前に座ったヴァナディースは、そう1つの包みを取り出した。
「あなたに、心からの親愛を込めて……メリークリスマス」
「えっ、えっ!?」
差し出されたのは、キラキラしたリボンで飾られたプレゼントボックス。
それを前に、とものは思わず声を上擦らせる。
だって……とものの家では、こんな風に、プレゼントを渡すなんて習慣は無かったから……。
(「も、もしかして……こ、これって、告白っ!?」)
とものが、このシチュエーションで考えられるのは『告白』の二文字だけだった。
(「ヴァナディースは好きだけど、私まだ14歳だしってかいやそれよりも女同士だし!?」)
1人で真っ赤になって混乱する彼女の姿に、ヴァナディースはなんとなーく考えている事を察すると、くすくす笑みを漏らす。
「これは、クリスマスプレゼントですわよ♪」
何を誤解してますの? とくすくす笑えば、「なぁんだ」という顔をするともの。「開けてみて?」と勧められるまま箱を開ければ、中には鈴付きの可愛らしいリボンが覗く。
「わぁ♪」
「ふふ、つけてあげる」
とものの腕を引くと、ヴァナディースは手際よく彼女の腕にそれを巻いてあげる。
「ありがとうございます……ってあ! 私も何かあげますー!?」
ハッとしたものの、準備なんて何一つしていない。あたふたするとものに、ヴァナディースは気にしないでと微笑む。
「それよりも、乾杯しましょう?」
「う……うん!」
その誘いに頷いて、とものは、すぐにグラスを準備すると、片方をヴァナディースに渡して。
「……メリー・クリスマス!」
カチンとグラスの触れ合う音が響くと、2人の笑顔がこぼれた。
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