●……慈泉…主とは…此処で出合った……
嗣天は、懐かしさの宿る瞳で、その場所を見つめた。
雪がうっすらと積もった路地裏。そこは、一見何の変哲もない、ごくごく普通の場所である。
だか、この場所こそが、嗣天にとって大切な……とても、かけがえのない、思い出の場所。
「……慈泉……主とは……此処で、出会った……」
その呟きを聞いているのは、1人だけ。
嗣天を雪から護るかのように、赤い傘をさしている慈泉……彼の大切な使役ゴーストの他には、誰もいない。
「……あの頃は……」
嗣天は続ける。
慈泉と出会ったあの頃、まだ幼かった自分は……1人ぼっちだった。
能力者としての力に目覚めた事で親から拒絶され、友達と呼べるような存在も誰もいない。
ただ、何をすることもなく、心の殻にこもっていた、あの頃……。
……慈泉との出会いは、今日と同じ、雪の降るクリスマスの日のことだった。
「だれもいない……」
帰って来た嗣天を出迎えたのは、しんと静まり返った自宅だった。
まだ幼く、合鍵など持っていない嗣天は、閉ざされた扉を開ける術を持たなくて。仕方なく家の前を離れて、うろうろと、あてもなく道を歩き始める。
近所の公園、児童館、学校のグラウンド……。
通りかかった場所を覗き込み、立ち寄ってみるけれど、そこには他の子供達がいて。その輪の中に入ることが出来ない嗣天は、また1人、どこかへと歩いていく。
やがて、その足が辿り着いたのは、1つの細い路地裏の道。
とぼとぼと歩いていくうちに、やがてその片隅で足を止めた嗣天は、そこで不思議なものを見た。
いつ、現れたのか。最初からそこにいたのか、いつの間にかそこに現れていたのか……それは、今思い返しててみても、分からない。
でも確かに、そこに立っていたのだ。
……慈泉が。
訪れた自分を、まっすぐに見つめながら。
「ここに……主が……立っていて……」
さくっ、と雪を踏み、嗣天は記憶を思い返しながら立つ。その後ろを、確かについてくる慈泉の気配。
今はもう、自分はあの頃のように、1人きりではない。
「……主と逢えて……幸せだよ……慈泉……これからも……よろしく」
振り返り、そう告げた嗣天は、そのまま慈泉に抱きついた。
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