●思いがけないクリスマスプレゼント
クリスマスイブの昼下がり。
小雪のちらつく街角を、ヒフミと甲太郎は歩いていた。
どこか機嫌よく歩くヒフミは、ショーウインドウを覗いては、あれやこれやと思案して。また1つ何かを買うと、その荷物を遠慮なく、甲太郎が運んでいる荷物の上に積み重ねる。
「またかよ!? ったく、なんで俺がテメェの買い物に付き合わなきゃいけねぇんだよ!」
「なんだよぉ……彼女いない暦16年の可哀想な従兄弟が、女の子に贈り物するって言うから、ボク必死で選ぶの手伝ってあげたのに……ちっとも感謝してないねぇ?」
抗議する甲太郎だが、ヒフミは悲しげに溜息1つ。
「感謝してたら、その子との約束の時間に遅れるんだよっ!」
交差点の大時計を見上げながら、焦りの滲む表情で言う甲太郎だが、それもヒフミはどこ吹く風。飄々と、そのまま道を歩いていく。
「だあぁぁ、もうっ!」
身軽な彼と違い、大荷物の甲太郎は人混みを進むのも一苦労。すいすい歩くヒフミを、仕方なさげに追いかける。
「大体、こんな大量の服……しかも女物! どうするんだよコレ!」
「どうするって……全て、愛しいマクダレーネへの贈り物だけど?」
買い物の様子を見ていた甲太郎が思わず訊けば、至極当然のように答えるヒフミ。
マクダレーネ。
その名前が、甲太郎が知っているマクダレーネを指すのなら、それはつまり。
「……スケルトン着飾らせるのかよ……」
それは、ヒフミの使役するゴーストの名だ。甲太郎は、思わずげんなりとした顔になる。
「……そういえば……」
そんな中、不意にヒフミの足が止まる。
彼は、唐突に何かを数えるように、指を1つずつ折り始める。
「なんだ?」
「いえね。甲ちゃんと出かけるなんて、何年ぶりだろうと……」
怪訝そうな甲太郎に、そうヒフミは言う。
小学生の頃、親の仕事の都合でヒフミが海外に渡り、戻って来たのが銀誓館学園に入学する時。
でも、甲太郎は下宿暮らしだし、2人はキャンパスも別々だから……これまで、ずっと、落ち着いて再会を喜ぶような機会は無かったのだ。
……ああ、そう考えれば。これは、なんて久しぶりの事なんだろう……。
「……これは……思いがけぬ、クリスマスプレゼントですね……」
「は? ……なんか言ったか?」
ぼそっと呟いた言葉を聞き取れず、相変わらず怪訝そうな甲太郎に、ヒフミは「いやぁ、なんでも」と首を振り。
「そうだ。甲ちゃん、今度一緒に遊びに行こうよ。……面白い心霊スポット、見つけたんだよぉー」
「死んでも断る!」
断固として首を振る甲太郎に、ヒフミは「約束だからねぇ〜」と、楽しそうに笑うのだった。
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