寿・司 & 四辻・乙夜

●Merry X'mas In OKOTA

「ふう……」
 肩に掛けた手ぬぐいで、額の汗を拭う。
 今日はクリスマス。恐らく学園などでは、楽しいクリスマスパーティーが行われている事だろう。
 だが、そんな事、バイト三昧の司には関係ない。
 関係ないはずなのだが……。
「あー、でもケーキとか食いたかったな……」
 ちょっぴり未練があった。

 一方、司がバイト三昧な頃。
 乙夜は、得意ではないものの、一生懸命『それ』を作っていた。
「痛っ!!」
 また絆創膏が増えてしまった。
「でも、まずまずってところかしら?」
 味見を終えた乙夜は、ふと、窓の外を眺めた。いつの間にか雪が降っている。
「さて、次は……」
 乙夜の準備は、まだこれから……。

「あ、あれ?」
 今日は思ったよりも早く、司のバイトは終わった。
 このまま帰るよりも、自分の所属する結社に寄って、休憩しようとしていたのだが……ついているはずのない明かりが、ついていた。
「あそこって、確か俺らが使ってる結社の……」
 司は早足で、その部屋に向かった。

「メリークリスマスっ!!」
 司はその扉を開く。
「お疲れ様、司」
 司を出迎えたのは、乙夜。
「イツ、お前だったのか。驚いたぜ、こんな時間に電気ついているんだからさ」
 その司の言葉に乙夜はくすくすと微笑む。
「そんなことよりも、こっちに来たら? 外、雪降ってたんでしょう?」
 そういって、乙夜が案内した先にあったもの。
 こたつにお茶に……手作りのブッシュ・ド・ノエル。そう、丸太の形をしたクリスマスケーキだ。
「え、マジ!? クリスマスケーキ!!?」
 嬉しそうにケーキに飛びつき。
「いっただっきまーーすっ!!」
 司は、すぐさまこたつに入り、切り分けられたケーキをがつがつ、嬉しそうに食べ始めた。
「うう……マジ食べられるなんて、もう食えねぇかと思ってたんだよな……」
 くうっとうれし泣きしながらも、ケーキを平らげる。
 実はこのケーキ、ちょっぴり焦げてたり、ちょっぴりクリームが歪に塗られたりしている。が、それよりもクリスマスにケーキを食べれたという、嬉しさが司の心を満たしていた。
「ん、んぐっ!!」
 案の定、喉に詰まらせていたり。
「はい、お茶。気をつけて」
「ぐぐっ……さ、サンキュ……」
 受け取ったお茶で、難を逃れる司。
 嬉しそうに食べている司を見て、乙夜は嬉しそうに微笑む。

 こたつの側でのクリスマス。
 外ではまだ雪が降っていたが、この教室では、そんな寒さなど微塵も感じなかったのであった。




イラストレーター名:冥丸イヌチヨ