●Moonlight Snow
周囲に人の気配の無い湖のほとりで、純白のティーテーブルを、シルフィエルとメルフィエルの姉妹が囲んでいた。
テーブルの上には、丁寧に淹れられた紅茶と、ケーキやサンドイッチが載ったティースタンド。
それらを、ただ静かに、空に浮かんだ月が照らしている。
「シルフィ姉、砂糖とミルクはいかがかえ?」
「じゃあ、お砂糖をお願いしますわ」
かちゃりとティースプーンが回され、互いの口元にカップが運ばれる。
過ぎていく時間は、2人にとって、とても大切なもの。
今夜は、特別な夜。
双子として生まれたシルフィエルとメルフィエルが、初めて2人きりで過ごすクリスマスなのだから。
「もうじき、今年も終わりじゃな」
「ええ。この一年も、とてもたくんの事がありましたわね」
2人は過ぎた月日を思い返して、互いの出来事を語り交わす。
「……そして、秋のあの日に、メルフィと再会したのでしたわね」
「うむ」
遠い昔のようでいて、まるで昨日のことかのよう。脳裏に鮮明に浮かび上がる光景を噛みしめながらシルフィエルが微笑めば、メルフィエも穏やかな顔で頷く。
「あの時、これをシルフィ姉と交換したのじゃったな」
指先で触れたのは胸元のリボン。紅のドレスに浮かぶ、蒼色のそれは、自分が持っていた紅のリボンと交換したもの。今、それもまた同じように、シルフィエルの胸元にある。
それは2人、どちらにとっても大切な物。
「……そして今年の冬は、まだ始まったばかりですわ。この季節は一緒に、たくさんの時間を過ごしましょうね」
「そ、そうじゃな……」
こうして今過ごしているように、2人での時間を。
そう、にこやかに微笑むシルフィエルに、メルフィエルはちょっぴり目を逸らしながら頷く。不機嫌、という訳ではない。微かに頬に浮かんだ赤みが、彼女が照れているのだと教えている。
「もうじき新年、正月には初詣などに出かけるのも……ん?」
照れ隠しにカップへ手を伸ばしたメルフィエルの言葉が途切れる。
指先に、肩に、髪に。
白く冷たい感触が、ふわり、ふわりと舞い落ちてくる。
「あら、雪ですわね」
それに気付いて、思わず見上げるシルフィエル。ホワイトクリスマスになりましたわね、と笑う言葉に誘われ、メルフィエルも同じように空を見る。
優しげな月明かりから零れ落ちるかのように、ゆっくりと舞い落ちる粉雪。
それは、とても幻想的な光景で。
「綺麗、じゃな……」
「つい見惚れてしまいますわね」
天から舞い降りる雪の姿を、2人はしばらく、そのまま見上げ続けていた……。
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