ガウェルズ・アーヴァンランス & 八重神・籠幻

●戦場でMerry X'mas―それでも変わらない俺ら

「あー……もう朝か」
 東から差し込んだ一筋の光に、籠幻は振り返ると、眩しそうに目を細めた。
 ゴーストとの激しい戦いを繰り広げ、それを終えたのがついさっき。
 気付けばもう、こんな時間かと、籠幻は心なしか重く感じる両足を、朝日の方へ動かす。
「戦ってるうちに、こんなトコまで来ちまったなぁ」
 一歩遅れて、屋上の端まで来たガウェルズは、そこからの景色を眺める。
 戦場が移動する事は、決して珍しい事ではない。とはいえ、それなりの距離を移動すれば、ガウェルズも籠幻も、流石に疲労を感じずにはいられない。
「……しかし、まさか夜通しでゴースト共とデートする羽目になるとはな」
「言うなよ。……クッ、寒いったらありゃしねぇな」
 小さく溜息混じりに漏らす籠幻に、ガウェルズは苦い顔で切り返す。
 今日は、クリスマス。
 それなのに、夜を共に過ごした相手が、ゴーストだというのでは。
「……主に心と懐がな……」
「言うなよ……」
 肩を落とした背中に哀愁を漂わせながら、溜息だってつきたくなるというものだ。

「……ま、気を取り直して」
 2人同時に溜息なんてつけば、流石に空気が重苦しい。
 ガウェルズは背を伸ばすと「今日はクリスマスなんだし、折角だから乾杯しようぜ」と籠幻に誘いかける。
「乾杯ったって……」
「ほれ」
 こんな所に、都合よくグラスや飲み物なんてあるはずが……と続けようとした言葉は、ガウェルズの放る瓶に遮られた。
 何でも、さっき偶然放置されていた炭酸飲料を見つけ、それを拝借していたらしい。
「つーわけで、乾杯といこうぜ」
「そうだな」
 瓶を打ち鳴らして一気にあおれば、その爽快感が、疲れた体には心地いい。
 2人が喉を鳴らす音だけが僅かに響く静寂の中、2人はゆっくりと登る朝日を眺める。
 戦いを終えた朝……クリスマスの朝。
 それは、人によっては特別なものなのかもしれない。
 でも、自分達にとっては。
 いつもと何も変わらない、互いの姿があるだけだ。
「んじゃ、一休みしたら帰るとしようぜ」
「ああ」
 短く頷き合った2人は、朝日を前に、1つの言葉を交わし合った。

「――メリー・クリスマス」




イラストレーター名:牧 ちさと