橘・御幸 & 緋勇・龍麻

●プレゼント交換

 クリスマス・イヴの日、御幸と龍麻はパーティ会場へと向かう廊下を歩いていた。
 遠くからは、どこかの教室でのパーティの喧騒が届いてくるが、今、この廊下には、2人以外に誰の姿も無い。
「……先輩」
 不意に、足を止めた御幸の様子に、龍麻も足を止めた。
 振り返る彼に、御幸はそっと尋ねる。
「プレゼント用意してきたんですけど、受け取ってくれませんか?」
 掌に包んだのは小さなプレゼントボックス。ほんのりと少し頬を赤くしながら、御幸はそっと、それを差し出す。
「俺に? ありがとう、御幸」
 龍麻は一瞬驚いたものの、すぐに微笑みながらそれを受け取る。
 中身は何だろう、なんて呟きながら、龍麻は「実は……」と彼女の方を見て。
「俺からも、プレゼントがあるんだ」
「え……いいんですか?」
 その言葉と共に差し出される、リボンの掛かった1つの包み。こっそりと龍麻が隠し持っていたそれを目にして、今度は御幸が目を丸くする番だ。
「もちろん。受け取ってくれ」
 御幸からのプレゼントが龍麻の手に渡ったように。龍麻からのプレゼントが御幸の手に渡る。
 プレゼント交換ですね、なんて笑いながら、御幸が包みを開けると、中からは暖かそうな、ふわふわのマフラーが出てくる。
「緋勇さんみたいに、あったかくて優しい……ありがとうございます」
「大した物じゃないんだけど、そう喜んでくれると嬉しいよ。御幸のは……懐中時計か。いい時計だな……」
 思わず首に添えて微笑む御幸に龍麻も笑みを浮かべて。開けた箱の中に収められていた懐中時計に、こんな素敵な物をありがとうと、龍麻もまた礼を言う。

「……えっと、その……先輩は今、好きな人って、います?」
 ふと会話が途切れたタイミングで、御幸は意を決して、そう龍麻に尋ねかけた。
「好きな人? うーん、まだ転校してきたばかりだし、あんまりそういうのは分からないけど……でも、大事な仲間は、もういるよ」
「……私のことは、好きですか? ……大事ですか?」
 少し考えながらの返事に、そう思わず見上げる御幸。少し不安そうな色に揺れる瞳を受け止めながら、龍麻は「大事じゃなければ、こんな風にプレゼントなんてあげない」と笑う。
「それに……」
 一歩、龍麻が近付けば、2人の距離は本当にとても僅か。
 すぐに触れられる。そんな位置から……龍麻は、御幸の額にちょんと口づけする。
「まだ、始まったばかりだからね」
 ほんの微かに触れて離れ、そう笑う龍麻。なんとなく、はぐらかされたように思いながらも……でも、嬉しくて。御幸は赤くなりながらも微笑む。
「先輩、その、あの……私、先輩のこと、好きです……」
 そう、消え入りそうな声で伝えれば、龍麻はそっと、優しく彼女の頭を撫でて。
「私……うん、嬉しいです……」
 その暖かい掌を感じながら、御幸はそっと幸せそうに瞼を閉じた。




イラストレーター名:黄桜伽奈子