天星・龍 & 宵・月亮

●二人の聖夜に祝杯を

 12月24日、聖なる夜。
 煌びやかなクリスマスイルミネーションの輝きを、遠くに見下ろす静かな廃墟に、2つのグラスの重なり合う音が響いた。
「今日は1日お疲れさん。ささやかながら、残りの聖夜を楽しむとしようぜ?」
「そうね……お疲れさま、っと」
 龍の言葉に、月亮は頷くと、近くで適当に買って来た料理を並べる。
 定番のチキンにショートケーキ、クラッカーやチーズやチョコレート……。
 劇的な料理は無いが、こうしてささやかに過ごすクリスマスのお供には、十分といえるだろう。

「……こうやって、遠くからイルミネーションを見るのも悪くないわね」
 遠くに煌く輝きを、グラス片手に眺めながら、月亮はそう呟く。
 あの近くにはきっと、大勢の人々がいる。
 その喧騒や賑やかさとは無縁なこの場所で、ぼんやりとイルミネーションを見ながら過ごす……。それは、多くの人々とは違う楽しみ方ではあるが、自分の性には合っていると、そう月亮は思う。
「こうやって、イルミネーションを見ていると、戦いの日々が嘘のようだよな……」
 戦士達にも休息は必要って事か……。
 そんな呟きが、彼女の背中に重なる。
 彼が言おうとしている事は、月亮にもよく分かった。能力者だって、いつも常に戦い続けていられる訳ではないのだから。こうして、過ごす時間もまた、大切なものだ。
 以前、同じ依頼に赴いた仲でもある2人は、肩を並べながら、静まり返った廃墟での時を過ごす。

「ん? そろそろ、いい時間だな。料理の方も尽きてきたし、お開きとするか」
 腕時計に目を落とした龍は、グラスに残った最後の一口を飲み干して、立ち上がる。
 気付けば、すっかり夜も更けた。ここのような廃墟でなくても、そろそろ街のあちこちが静まり返り始める頃だろう。
 そろそろ、引き上げるのにもいい頃合だろう。
「そうね、あまり遅くなりすぎないうちに帰りましょ。……来年はお互い、別の相手と、こういう風景を見たいわね」
 月亮も立ち上がるとグラスを片付け……小さく、溜息をつきながら、独り言のように呟きを漏らす。
「……俺は、来年も月亮と一緒がいいけどな……」
 その呟きよりも、更にもっと小さく囁くように紡がれる龍の声。すぐに「今のは、幻聴ということにしといてくれ」と付け加えられた彼の言葉は、月亮の耳に届いたのか、届かなかったのか……。
「……また来年も、此処に来れるといいな」
 何事も無かったかのように振り返る龍に、月亮は頷いた。




イラストレーター名:風一色