●和楽 -銀-
「白餅、こっちじゃ」
秋一は店に客がいないタイミングを見計らい、そう自分の使役ゴーストの名を呼んだ。
手招きに、小さく鳴きながら近付いて来る白餅。その瞳が、ちょっぴり輝いているように見えたのは、きっと秋一の気のせいではないだろう。
「今日はクリスマスじゃからな。やはり、クリスマスといえばケーキじゃろう」
言いながら、秋一はケーキを切り分ける。
2人分としては、十分すぎる量のホールケーキ。それを、ショートケーキサイズに切り分けて、まずは白餅の皿へ。それから、自分の皿へと乗せる。
「さあ、食べ……ってちょ! 白餅、それはわしの分じゃ!」
いただきます、とフォークを持てば、目に映るのは秋一の皿から苺を奪っていく白餅の姿。見ればもう、白餅の前に置かれた皿はすっかり空になっている。
「仕方ない奴じゃな……。またお前の分を切ってやるから、少し待つのじゃ」
よほどケーキが美味しかったのだろうか。苺を頬張り、とてつもなく幸せそうに見える白餅の姿に、秋一はやれやれといった顔をしながらも、またナイフを取る。
「さてと……」
新しいケーキに近付いていく白餅。ようやく一息ついて、ケーキを食べながら、秋一は白餅の様子を眺めて目を細める。
こんな風に、白餅と一緒に過ごすクリスマスは……ああ、本当に、とても楽しい。
そう、秋一はしみじみと思う。
「……おお? 雪か」
やがて、視界にちらちらと舞い始めた白いものに気付いて、秋一は顔を上げた。
見上げれば、1つ、また1つと、空から粉雪が舞い降りてくる。
「今日は寒いと思うておったら、降り始めたわい……のう、白餅、雪じゃぞ!」
思わず瞳を輝かせて雪に見入りながら、そう振り返った秋一だったが、次に視界に入った光景に苦笑する。
そう呼びかけても、白餅は雪には見向きもしないで、相変わらずケーキに夢中だったから。
「なんじゃ、おぬしは。ほんに食い意地がはっておるのう」
ご機嫌な様子でケーキを食べ続けている白餅に、そう溜息をつきながらも、その姿に思わず笑みをこぼす。
最後のひとかけらを頬張って、顔を上げた相棒に「クリームが付いておるぞ」と拭ってやりつつ、秋一はその体を撫でて。
「……良いクリスマスじゃのう……」
2人で一緒に過ごす、ホワイトクリスマス。
相方は、何よりも食い気の奴ではあるけれど。
これはこれで幸せじゃないかと、そうしみじみ幸せを噛み締める秋一だった。
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