<リプレイ>


 銀誓館学園の学園祭も2日目の午後を迎え、生徒達の盛り上がりは最高潮に達していた。
 残り少ない時間を惜しむかのように、生徒達は次々に結社企画へと入っていく。
 結社企画人気投票の集計を終えた王子・団十郎は、その流れに沿うようにして歩いていた。
 その手の中にある紙には、幾つかの結社の名が書き込まれている。
「ここだな……」
 そして団十郎は、一つの教室の中へと入っていった。

●第3位
 団十郎が入ったその教室の中で行われていたのは、しりとりだった。
「前が『る』だから……それじゃ、ルノワール。日本人にも好まれる画風で人気があるわね。次も『る』よ〜♪」
「ええと……」
 島宮・火蓮(赤い靴のカーレン・b01973)が言うのに続く言葉を、今度はこの企画を運営している結社、「しりとり同好会」の団員が繋いでいく。
 入り口から様子を見ていた団十郎に、弘瀬・章人(ディーレクトゥス・b09525)が声を掛ける。
「やぁ、いらっしゃい。ようこそ、しりとり同好会へ」
「これは、どういう企画なんだ?」
 団十郎の問いに、章人は軽く微笑んだ。
「特に制限のない、シンプルなしりとりを延々と続ける企画だ。『2日間、何処までしりとりを続ける事が出来るのか?』がテーマになっているから、気軽に参加していってくれ」
「いらっしゃる皆さん、博識ですから、どんどんしりとりが続いていきますよ。知識が豊富になる気がします♪」
「いつも通りのんびりと……となるかと思ったんですけど、予想以上に初めてのお客さんにお越し頂けて……あ、いらっしゃいませー」
 川満・紅実(花明り・b16707)が微笑で告げる横、地祇谷・是空(ディーレクタ・b03968)が団十郎の後から入って来た客を案内していく。
「通りすがりの人がしり取りに参加していくケースも多いのかな?」
「色んな人が来てくれてるの! ルールが単純で、誰でも参加しやすいから!」
「なるほど、しりとりなら誰でもルールを分かっているからな」
 またしりとりをしに戻っていく萩森・水澄花(ローズミスト・b25457)に団十郎は頷いた。
 トーテムポール、ルンバ、バインダー、大工、釘、ギター、タクト、都会、伊勢神宮……。
 団十郎が話をしている間にも、しり取りは次々と進んでいく。
 やはり企画の単純さが受けているのかもしれないと、客の流れを見ながら考える彼に、章人が誘いを掛けた。
「ところで、王子もしりとりに参加しに来てくれたのか?」
「ああ、済まない。俺はちょっと報告に来ただけで、すぐ次に行かなければいけないんだ」
「?」
 怪訝な表情を作った
「君達の企画が、人気投票の結社活動発表部門で、第3位となった。……おめでとう!」
「……本当か!?」
 即座に反応したのは、三島・月吉(へっぽこ仮面・b05892)だった。
「うむ、言葉の繋がりだけでなく人との繋がりも出来ていく……その素晴らしさが認められたのだろうよ」
「しりとりで繋がる友達の輪……だな。よしみんな、知力と体力の限界に挑戦するぞ!」
 快哉を上げる団員達を見つめ、団十郎は一つ頷くと次の結社発表へと向かうのだった。


●第2位
 次に団十郎が訪れた扉の前にある看板には、無料休憩所「にゃんこ触り亭」とあった。
 運営する結社はまさしく休憩所に相応しい、『怠惰なる世界を愛する同好会』だ。
「……あ、いらっしゃいませ」
 扉を開いた団十郎に気付き、日野瀬・紀(灰青・b02837)がゆっくりと頭を下げる。
 教室の中は普段とは異なり、畳が敷かれ、靴を脱いで上がる形式になっていた。
 客の中には、ごろ寝をして休息を取っている者もいる。
 そして休んでいる来客達の間を、一匹の黒猫が行き交っていた。のが団十郎の目に映った。積極的に客へと愛想を振りまいていたその猫は、女性客に撫でられ、嬉しそうな鳴き声を上げている。
「あれが、看板の『にゃんこ触り放題』の意味か……」
「ええ、そうです。飲み物はセルフサービスになっていますから、遠慮なくどうぞ……。では、どうぞごゆっくり……」
「ただ、あっちにある諸注意は守ってくれよな?」
 呟いた団十郎の言葉を妃が肯定、さらに天喰・鶫(グラウドロッセル・b09663)が釘を刺す。
 団十郎が鶫の指差す方を見ると、壁には注意書きがあった。その注意書きに曰く、

・休憩所なので騒ぎ過ぎないように
・ナンパ等の迷惑行為は禁止
・猫をいじめない

「猫を撫で過ぎるとノイローゼになると言うが」
「まあ、そこは気にしなくてOKだぜ。あの猫はそういうこと無いから」
 呟いた団十郎に鶫が肩をすくめていると、団十郎の足元に、先程の黒猫が擦り寄って来た。
「猫は可愛いですよねー……」
 なんとはなしにその猫を撫でつつ、団十郎は猫の可愛さに頬を緩ませていた九十九塚・灰那(アンダーテイカー・b06678)に尋ねる。
「ところで、団長はどちらにいるかな?」
「え? えーっと……」
 ねこじゃらしを持った灰那は困ったような表情を作り、不意に声を潜めると、
「それです」
「……?」
 彼の指差す先にいるのは、先程の黒猫だ。
 嬉しそうに尻尾を振るその猫の仕草に一瞬人間くさいものを感じ、団十郎は細い目を驚きに一瞬見開く。
 にゃぁ〜ん。
 その反応に、黒猫……猫変身した高木・誠(まにゃんじゅつし・b00744)は、嬉しそうに鳴き声を上げた。つまるところ、この企画は魔弾術士がひたすら頑張るものだったらしい。
 嬉しそうに店内を行き来する猫達へ、団十郎は声を張り上げた。
「君達の企画が、結社活動発表の人気投票で第2位を取った。……おめでとう」
「「にゃ!?」」
 誠、そして遠野・風花(風を撫でる花・b17712)の猫2匹は、顔を見合わせて驚きの声を上げたのだった。

●審査員特別賞
「これは、壮観だな……」
 教室の扉を開き、団十郎は軽く眉を上げた。
 帽子屋さん【ボルサリーノ】と書かれた看板の下がった店内には、企画の名の通り、形も色も様々な帽子が飾られている。
 そしてその店内では、団長の十条寺・達磨(マッドハッター・b01674)をはじめとした団員達が、来客の一人一人が寄せる相談に応じていた。ややあって、団十郎に気付いたのか、達磨が声を掛けて来る。
「いらっしゃい! 帽子のコーディネイトなら遠慮なく言ってくれ!」
「ああ、そうではないんだ」
 威勢良く言った言葉を、団十郎は軽く手を上げて遮った。
「君達の企画『【ボルサリーノ】で帽子をコーディネート』が、結社活動発表部門、審査員特別賞の受賞を報告に来た。この店は、非常に親切に帽子をコーディネイトしてくれた、と……」
 この店でグレーのスロウチハットと、ベージュの中折れ帽を見繕って貰ったという鬼庭・律(ハーフボイルド・b13265)の投票用紙を思い出しつつ、団十郎はそう告げる。
「やったね!」
「ああ!」
 柊・千歳(ブリティッシュスター・b21370)と達磨が親指を立てるのと共に、店内の客や店員から拍手が起こった。そして、店内の皆は、先程よりも明るい表情でそれぞれのコーディネイトへと戻って行く。
 ふと店内を見回し、団十郎はある一角に目を留めた。
 そこには14個の帽子が並び、その横に投票用紙が置いてある。
「あのコーナーでは、何をやっているんだ?」
 その問いに素早く答えたのは、千歳だった。
「あれは、昨日から今日にかけてコーディネートした帽子なの! 投票してもらって、人気があったのを学園祭の後に商品として売り出すのよ!」
「学園祭が終った後も、ボルサリーノをよろしく頼むぜ!」
 団十郎と握手を交わし、達磨は手を振って彼を見送ったのだった。

●そして、第1位は!?
 次に団十郎が向かった先は、一つの喫茶店だった。
 店の名前は占い喫茶『ヘキサグラム』。企画を運営する結社は『六芒会』だ。
 守宮・杏奈(中学生ヘリオン・b27623)によれば、ここにはとても素敵な人がいた、との事。
 接客の良さが好感を受けていた理由であろう、と思いながら店の入り口をくぐった団十郎は、
「いらっしゃーませーご機嫌うるわしゅー。お席に案内します♪」
 入るなり笑顔を向けて来たメイド服姿の三田・ハズル(見果てぬデネヴ・b08303)を、思わずまじまじと見つめていた。
(「……男……だよな」)
「……うう、なんだか視線が痛い……! っていうかなんでみんな笑顔なんですか!?」
 他の店員達に笑顔を向けられているハズルをはじめとして、団員達は皆変わった装いだった。
 それでも着ぐるみや、等は、まだ常識的な範囲かも知れないと団十郎は思いかけ、先にやらねばならぬ事がある、と思考を引き戻す。
「ああ、すまない。団長の……乾君はいるかな?」
「? 少しお掛けになってお待ち下さい」
 団十郎を席に案内し、ハズルはメニューを置くとそこから離れていった。待ち時間の間に団十郎がメニューへと視線を落とせば、普通の喫茶店としてのメニューの他に、各種占いの項目がある。その中にあった項目に、団十郎は怪訝な声を上げた。
「ゴースト占い……?」
「興味があるかね?」
 思わず胡乱げな声を上げた団十郎に、不意に男の声がかかる。団十郎が顔を上げれば、そこにいるのは、乾・玄蕃(魔法使い・b11329)だ。
「お待たせしたな」
「……おめでとう、君達の企画が、人気投票の結社活動発表部門で第1位に……くっ」
「何故笑う」
 細い目をさらに細めて顔を背けた団十郎に、玄蕃は無表情にツッコミを入れていた。
 団長の玄蕃が着ていたのは、先程のハズルのメイド服を一層立派にした様なメイド服だった。

「それでは、早速ですが王子・団十郎さんを占わせていただきます!!」
 玄蕃と入れ替わりに団十郎の前の席に座ったのは、黒スーツにサングラス姿の玖田・時那(ソニックブルーム・b16160)だった。
 ゴースト占いを強制的に受けさせられる事になった団十郎の顔を見つめ、時那は真剣な表情でしばらく集中した後、
「――ズバリ言います! あなたは『ブルーナイト』です。誰もが認める親分肌。様々な仲間が貴方について行きます。十分に面倒を見てあげましょう!」
「……なるほど。ありがとう、参考になった。まあ、普段は皆に頑張ってもらう方なんだがな」
 なんとなく普段の運命予報の事を考えながら、団十郎は賑わいを見せる『ヘキサグラム』を後にしたのだった。

●学園祭の終わり  そして18時を迎え、結社企画は終了する。
 それは2日間に渡る学園祭が、その終わりを迎える瞬間でもあった。
 だが、夏休みを前にして学園祭の喧騒に包まれていた校舎には、その盛況ぶりを示すように生徒達の声が響いている。
「今年は、盛況だったな。来年以降も、こうであって欲しいものだ」
 まだ熱気に溢れる廊下を歩きながら、団十郎はその厳つい顔に笑みを浮かべたのだった。