<リプレイ>

●通りすがりのギタリスト
「あの、すみません。そこのお兄さん」
 学園祭二日目の昼下がり。
 活気に満ちた学園内を見物していた謎のギタリストは、不意に1人の生徒に呼び止められた。
「……俺か? 何の用だ」
「その、実は」
 生徒は、さっきまで彼がいた場所に置かれていた、結社企画への投票箱を取り出した。
「今、集計結果が出たんです。本当は、人気の企画に取材を……」
「ああ、いい。面倒だ。……とりあえず何か歌ってみろ」
「へ?」
 説明を遮るギタリスト。
 目を丸くしている生徒に真剣な顔で言いながら、背負っていたギターを構える。
「は、はぁ……」
 有無を言わせない雰囲気に、とりあえず歌う生徒。
 その歌声に、ギタリストの奏でるビートが重なり合う。
(「取材を担当するはずだった人が急病になったから、代わりに引き受けてくれる人を探そうとしたんだけど……失敗したかなぁ……よく見たら、この人、うちの生徒じゃ無いっぽいし……」)
 ちょっぴり後悔しながら歌う生徒。その即興のセッションは1分程で終わる。
 さあ、どうしようかと、生徒が小さく溜息をついた時。
「……なるほどな。分かった、引き受けよう」
 ギタリストは、何もかも理解したような顔で頷くと、取材先のリストはどこだと聞く。
「え? ええと、これですけど……」
「そうか。後は任せておけ」
 生徒の手から引ったくるように紙を受け取ると、ギタリストは最初の目的地へと歩き出す。
「……?」
 残された生徒は怪訝な顔でいたが、まあ、これで何とかなりそうだし良いか、と、再び自分の仕事に戻っていった。

●目指せ剣豪! 居合道部体験会!
「まずは、ここか」
 最初にギタリストが訪れたのは、とある教室だった。企画名を確かめ、ドアを開けると。
「あ、いらっしゃいませ!」
 出迎えたのは、爽やかな笑顔の猫耳女装メイド、三神・清流(源清流清・b02342)だった。
「……ここは、居合いの体験だったな?」
「ああ。こっちへどうぞ」
 身長180超、17歳の女装に怯む事なく尋ねたギタリストに、笑顔で頷く清流。だがギタリストは「その前に」と団員達に用件を切り出す。
「俺は、取材の為に来たんだ。……この『目指せ剣豪!修行体験』が、人気投票で三位を獲得した、その感想を聞きに、な」
「ここが三位?」
 団長の桐生・カタナ(緋眼之骸・b04195)をはじめ、居合道部の面々は、驚きのあまり声が出ない。
 カタナ自身、直前に参加を決定した事もあり、準備不足は否めないと思っていた。その割には良く動けていたとは思うが、今回の反省点を、更に来年に生かしたいと……そう考えていた矢先に、この結果だ。
「来てくれた人達に、楽しんで貰えたって事ですよね……」
 それを嬉しく思う浜宮・澄子(水行末・b27842)。体験後、彼女から貰ったお茶を飲んでいた桐山・ゆう(黎明の希道者・b11211)も、我が事のようにおめでとうと拍手する。
「残りの時間も頑張るぞー! さあ次のお客さん、どうぞー!」
「よし……」
 嬉しさを噛み締めながらの月村・理代(翠天剣士・b03267)の言葉に、城之崎・恒(浅葱の黒朴念・b11612)が木刀を手にする。魔剣士としての要領で、こんなの楽勝なはずだと挑戦する恒だが、なかなかピンポン玉に当たらない。
「刀の心は明鏡止水。落着き、見据えろ……見えた!」
 すかっ。
「く、くそおおおおっ!」
 悔しげに、でも十分に楽しんだ様子で叫ぶ恒に、室内から笑いが湧き上がる。
「……なるほど、な」
 ギタリストはそんな光景をメモすると、静かに次の企画へ向かった。

●こちら、リアルタイム放送局
 次にギタリストが向かったのは放送室。扉には『ぼいどらじお★いぐにっしょん超拡大SP』と書かれている。
「思わず笑っちゃいました」
「すっかりファンになったよ」
 感想を語る、染雪・荏徒(お年頃・b03246)や吉国・高斗(薄幸怪傑赤マフラー・b05216)らとすれ違う。
「こんな楽しいラジオは今まで聴いたことが無いどり!」
 口羽・泰昭(陽光求めて闇夜飛ぶ紅揚羽・b07765)のように、不思議な口調の者も混ざっている。どうやら、これは番組の影響らしい。
「番組、楽しませてもらった。これからも楽しい結社活動を続けていって欲しい」
「ありがとうございます」
 千郭・心雨(中学生フリッカースペード・b24491)に頷く『ぼいすどらま同好会』の面々。どうやら、ちょうど放送が終わった直後のようだ。
「あ、ごめんなさい。ちょっと休憩時間なんです」
「それは残念」
 お世辞抜きで言うと、それはそれとして用があると告げるギタリスト。
「おめでとう。人気投票で、ここの企画が二位を獲得したぞ」
「本当ですか!?」
 団長の市古・たると(修羅苺・b03976)をはじめ、同好会の面々が顔を輝かせる。ギタリストが見せた集計結果を前に、彼らは「ほ、本当だ……」と嬉しさを噛み締める。
「さあ、投票してくれた人達にメッセージを」
「え、えっと……」
 照れて悩むたると。そこに創流・鉄彦(鋼のホーンフリーク・b13579)と早坂・往尋(ネタ街道をひた走る・b19229)が進み出る。
「朝から晩まで付き合ってくれた、すべてのリスナーと協力してくれたみんなに送るッ!」
「愛してるぜみんな! 聞いてくれて、サンキューな!!」
「えへへ……今回の企画は成功、です♪」
 二人に続いて笑うたると。彼らの言葉を確かにメモして、ギタリストはまた歩き出した。


●君は地下迷宮をクリアできるか!?
 どこからか聞こえた叫びに、ギタリストは思わず足を止めた。
「トウキョウナイトラビリンス……騎士の迷宮……?」
 企画名を目にしている間にも、誰かがとぼとぼと出てくる。見れば扉には『非常口』の文字。
「迷路のような物か……」
 中に入るギタリストを出迎えたのは、机や椅子が積み上げられた真っ暗な教室……もとい、中世の古城を思わせる地下迷宮(自己暗示)。
 どうやら、ここを伝説の騎士『刀狂騎士(トウキョウナイト)』になって探索するという趣旨らしい。
「なるほどな……」
 ユニークな企画だと感心しながら、一歩踏み出すギタリスト。狭い通路でも、ギターは決して手放さない。じきに通路は枝分かれし、自分が今どこにいるのか解らなくなっていく。
「ま、迷った……」
 そう言いながらも楽しげな生徒とすれ違いながら、やがて迷宮の番人たる騎士(役の生徒)と遭遇する!
「く……」
 襲い掛かって来る騎士に、咄嗟にギターを振り上げ……そうになるのを押し留め、ギタリストは入口で渡された武器で門番を突破すると、2つの鍵を入手し、宝箱まで辿り着く。
「……宝って、これなのか」
 ゴールデンしゅっぽんこと金色のラバーカップを手に複雑そうな顔をしつつも、もう1人の騎士を倒し、ゴールへ辿り着くギタリスト。
「お客さん、どうだった? トウキョウナイトラビリンス、最高でしょ!」
「ああ、面白かった」
 そこに、ひょっこり顔を出すのは御手洗・薫(わが青春のときめきメモリアル・b03081)。頷き返すギタリストに、何日も徹夜した甲斐があったよと、薫は満足げに笑った。

●人気投票、栄えある一位の栄光は……
 最後にギタリストが訪れたのは、グラウンドだった。様々な企画の脇を通り、やがて彼が訪れた先は……。
「あ、また新しいお客さんにゃ。いらっしゃいませにゃ♪」
 にぱっと出迎えるのは杉浦・莉那(夢みるドルチェ・b18446)。そう、ここは彼女が所属する『銀誓館学園・野球部』による『目指せ、銀誓の星★』のコーナー。ここではストラックアウトが楽しめ、たこ焼きやスペシャルドリンクなどの景品がある。獲得景品は、付属の休憩所で食べて行ける仕組みだ。
「また新しいお客さんかよ! 全く、ゆっくり他を回っている暇がないな……」
 嬉しい悩みを吐露しつつ、案内する地蔵河原・咲左衛門(夢はでっかくメジャーへだぜっ・b21665)。彼の言う通り、ここは大勢の生徒で賑わっていた。
「ソフトボール大会で鍛えた私のコントロールを見せてくれるわー!」
 叢雲・恋(黄月遊奇・b12938)がハイテンションにボールを投げる。昨日と違い不調の恋だったが、こういう事もあるさと笑い飛ばす。
「やりましたわ!」
 乙女の意地とばかりに、二枚抜きを決めた名倉・蝶(高校生白燐蟲使い・b19235)は高笑い。早速景品を貰いに向かう。
「さ、次はあんたの番だ」
 判定員の1人、由利・友也(ファーストブロウ・b14443)に促され、ギターを背負ったまま挑戦するギタリストだが、その結果は揮わず残念賞。
「残念だったな。ま、良ければ向こうで休んでいってくれ。景品以外にも、ちょっとした食べ物や飲み物を用意してるからさ」
 促されるまま行けば、そこでは何人かが景品に舌鼓……。
「う、うまか……うまずい」
 ちょっと違った。
 嘘をつけない川端・工(白昼夢・b00271)だけではない。景品はいつしか、たこ焼きから『ブルーハワイ入りたこ焼き』等になっていたらしい。
「……」
 安全そうなドリンクを選び、一息つくギタリスト。だが、その隣で月館・影嚮(三足烏の燧石・b01855)が羊羹おにぎりを食べるのに気付いて、微妙な顔。
「何でこんなカオスになったんだろ……」
 団長の逢坂・壱球(流星球児・b16236)は遠い目をするが、ともあれ、大盛況を噛み締める。
 そんな彼ら野球部員に近付き、ギタリストはニヒルに笑った。
「実は、俺は取材に来たんだ。……珍しくは無いが、誰でも楽しめるいい企画だな。流石は、人気投票で一位を獲得するだけある」
「一位!?」
 驚く彼らに、速報結果を見せるギタリスト。
「沢山のお客さんが来てくれただけで、嬉しいって思ってたけど……」
「一位だなんて、やったな!」
 大いに喜ぶ団員達。感想をと促され、壱球が口を開く。
「予想外の結果で驚いたけど、これも来てくれた沢山の人達のお陰だ。みんな、ありがとな!」
 言うなり、また皆と喜びを分かち合う壱球。
 そんな彼らの様子を眺め、口元に微かに笑みを浮かべるギタリスト。ギターを背負い直すと、そのまま無言で立ち去っていく。
「あ。そういや、あんた……あれ、いない?」
 いつしか消えたギタリストに、壱球は、またそのうちまた会う事もあるだろうと考え直して、今はただ、仲間と企画の大成功を喜ぶのだった。