柏村・健幹

<天空の戦い 侵攻開始!>


 メガリス『鬼の手』は、蒼天を貫いて遥かな天空の彼方まで伸びていた。
 悪路王軍の行った詠唱銀投入儀式にとって、鬼の手は軍を送り込むに足る広さの、道というべき存在となっている。
 その道を伝い、能力者達は一路、空の彼方に浮かぶランドルフの居城、『神の城』を目指す。
 かつての「マヨイガの戦い」に参戦したことのある能力者達にとっては、あの戦いの際に使用した「天陽の道」と似たような光景ともいえるだろう。だが、『神の島』が存在する場所はマヨイガを遥かに凌駕する高さに位置している。
 高度にして地表から数十km、宇宙に達しようとする領域に浮遊する巨大な城。
 そこが、神秘撲滅をめぐる決戦の舞台だった。

 常人であれば簡単に凍死しているであろう高度を、能力者達は駆け登っていく。
 イグニッションしている現状、温度や気圧といった要素は彼らにとって障害とは成り得ない。能力者達にとって自分が常識外の存在であると最も実感するのは、こういう時かも知れなかった。
 日本列島が見渡せるような高度を、あまり下を見ないようにしながら能力者達は走りゆく。

 やがて見えてくる城の外壁部では、悪路王軍が陣を整えて待っていた。
 城門において彼らと相対するのは、無数ともいうべき数の量産型巡礼士達だ。
 悪路王軍と銀誓館学園が『神の門』を奪取して以降、散発的に襲来するようになったランドルフ側の勢力は、悪路王軍の武者たちによって退けられていた。
 むしろ悪路王軍の戦力を図ろうとする狙いが強いのだろう、というのが、悪路王達と共にいた能力者達の見立てだった。
 神の門を突破されたためだろう、ランドルフ側も戦力の拡充に努めているらしく、単なる動く鎧状の量産型巡礼士の他にも長い腕を持つものや巨大な目玉をもつものといった異様な姿の金属の兵が、敵の中には散見されるようになっていた。

 作戦 『銀誓館学園の準備は整ったか! ならば攻勢に出るぞ!!』
 悪路王の言葉と共に、悪路王軍の武者たちが突撃隊形へと移行する。
『神秘の根絶など認めはせぬ。いざ、戦いの時!!
 我が旗の元に集いし兵(つわもの)よ、共に進め!!』
 悪路王の号令に、武者たちが刀を振り上げときの声を上げる。

「盛り上がってんな。こっちもいこうぜ!!」
 コマンダー、柏村・健幹(ウォーキングビート・b80328)の声と共に、ティンカーベルの『持ち物』となっている蜘蛛の置物が破壊される。
 能力者達の力が収束し、蜘蛛の置物を破壊すると共に、『生命賛歌』は発動した。
 生命を讃える歌が体の奥底から湧き上がり、能力者達に戦いを制するための力を与える。

『さあ、銀誓館学園の指揮官よ、号令を下せ!』
「よし……!! 侵攻開始だ!!」

 銀誓館学園の能力者達は悪路王軍と共に、攻撃を開始する。
 目指すは神の島の最奥、神秘撲滅儀式の中核となる三儀式。
 神秘撲滅を巡る決戦は今、その幕を切って落とされたのだ。