<リプレイ>

●結社企画巡り〜喫茶店巡り編
 この学園の学園祭は、やはり活気に満ち溢れているな。
 皆の熱い魂の伝わる企画、どれも素晴らしいものだった。
 できることなら、暫しこの余韻に浸っていたいところだが……。

 ……その前に、結果の発表をしなくてはな。
 お前達も、早く結果を知りたいだろう?

●第3位〜読書喫茶店〜エーデルワイス〜
 学園祭の喧騒から離れたところにあるひとつの教室。そこは今、小洒落た雰囲気のの喫茶店となっていた。
「ようこそ、読書喫茶店エーデルワイスへ」
 鉄平を迎えてくれたのは、店員の柔らかな声。そして本独特のあの香り。
「……なるほど、静かで落ち着きのある空間だ」
 趣のある、古い椅子に腰掛けて。まずは麦茶を飲みながら、店員お勧めの文学小説などをゆるりと一冊……。
「おっと」
 まるで時が止まったかのような空間に、危うく魅了されかけた鉄平だが、はたと本来の目的を思い出し、麦茶を飲み干し立ち上がる。
「おめでとう。この店が、喫茶店巡り部門の第3位だ」
 その言葉に、シフォンケーキを運んでいたエリュシオネスの顔がほころんだ。
「本当ですか、有難うございます」
「あぁ。良い雰囲気の店だとの投票が多数届いている」
 そして鉄平は、この店を訪れている客たちの生の声を拾うべく、緑茶を飲みつつゆっくりと一冊の本を楽しんでいる少女へと近付いた。
「読書中に邪魔して済まない」
「あっ、こんにちは」
 ぺこりと、ゆるく頭を下げあう。
「どうだ、この店は」
「はい。緑茶をゆっくり飲みながら、他にいらした方や店員と、おしゃべりを楽しみました。うん、こういうのも悪くないですね」
 そう言って微笑むと、少女はまた、手元の本に視線を落とす。

 次に声をかけたのは、とても元気そうな少年だった。
 部屋の静謐な空気を読み取ってか、声量は若干控えめに、それでも、とても楽しそうに少年は語ってくれた。
「まずはオレンジジュースを注文して、ついでにショウタロウを頼もうとしたんだ」
「ショウタロウ?」
「本ではなく、裏メニューですわ」
「裏?」
「そう、裏メニュー。頼んだ時に聞き返されて、嫌な予感がしたんだ」
 はたしてどんなメニューなのかと、エリュシオネスと少年の顔を交互に見る鉄平。
「量が、とても多くなっているんです」
「そうそう。だから今は諦めて、三食団子を頼んで、夜とかにまた来ることにしたんだ!」
「そうか。ならばぜひ、あとから挑戦してみてくれ」
 ショウタロウに挑む気満々らしい少年に、鉄平は静かにエールを送った。
「さて……」
 次に鉄平が目をつけたのは、剣客小説を読む少女だった。
 そのテーブルに置かれているカップには、キャラメルマキアートで、可愛らしいモーラットが描かれていた。
「剣客物の小説が好きなのか?」
「はい! さっきまでは鬼平犯科帳を読みながら、エリス先輩と色々おしゃべりなんかしたよ。楽しかったな!」
「成程、本を読みながら語らうというのも、また楽しそうだな」
 キャラメルマキアートの絵柄は、頼めば、他にも色々と描いてもらうことができるらしい。
(「後で、俺も何か頼んでみるか……」)
 ひそかにそんな楽しみを抱きながら、鉄平は、エーデルワイス〜をあとにした。

●第2位〜メイロキッサ
 そこはさながら、特殊空間。
「いらっしゃいませ……メイロキッサへようこそ」
 教室に足を踏み入れた鉄平に、銀の鈴が渡される。
「これは、迷ったときに助けてくれる、メイロ猫さまの鈴……。迷路をクリアすると、カフェのあるスペースにたどりつけるから、頑張ってクリアしてね……」
「そ、そうか……。ならば早速、挑戦してみよう」
 覚悟を決めて、一歩を踏み出す。
 まず到着したのは、観葉植物やハーブが置かれた緑色の部屋だった。
「さて、次はどうする?」
 白か、それとも青か。
 魂の声に耳を傾け、鉄平が選んだのは……。
「この道だ!」
 そして……。

 ……………。
 ……どれくらいの数の部屋を巡ったろうか。
「いかん、これではいつまでたっても結果を伝えられん!」
 鉄平は断腸の思いで、渡されていた鈴を鳴らした。
 すると、黒い猫を抱いた、不思議な服装の人物が現れた。
「お前がメイロ猫か」
 その言葉に、猫を抱いた人物は、無言のまま微笑んで、鉄平を、迷路のゴールである喫茶室へと案内してくれた。
「お疲れさま……」
「……メイロコーヒーを一つ頼む」
 ぐったりと座り込む鉄平の前に、よく冷えたアイスコーヒーと一緒に、サービスのクッキーとマカロンが少しずつ並べられる。
「随分凝った迷路だったな。これは、団員皆で考えたのか?」
「はい、考えるの大変でした」
「作るのを手伝うのも、楽しんで貰ってるのを見るのも楽しかったです」
 店員たちの話を聞きながら、マカロンを一口。
「黒天使猫さんのマカロン、ふわふわ食感が好評でした!」
「うん、いい食感だ」
 メイロを思わす渦巻クッキーも味わって、疲れを軽く癒したところで、鉄平は、この迷路をクリア(?)した客たちにも、感想を聞いてみることにした。
「どうだ、この迷路は楽しかったか?」
「迷路の行く先、恐怖のダジャレ部屋……そんなバナナ」
「駄洒落部屋、だと?」
「そして次は、猫になる部屋……。にゃんにゃー、にゃぁ……!」
「そんな部屋まであったのか!」
 猫になる部屋で、猫真似をする己の姿を想像して、鉄平は思わず戦慄した。そして思った。早々に鈴を鳴らして良かった……と。
「けれどゴールのカフェで白木様にクッキーと紅茶をご馳走になって、のんびり一時を過ごせました」
「そうか、それは良かった」
 楽しさの中に、微かな恐怖を内包しつつ、鉄平はまた別な客へマイクを向けた。
「此処の迷路は、どうだった?」
「凄く凝ってて沢山迷ったけど、内装もイベント部屋も本当に面白かった」
 どうやらこの客もまた、あの駄洒落部屋や猫部屋に足を踏み入れたらしい。
「他には、どんな部屋があったんだ?」
「宝物庫があったよ」
 なんと、宝物庫に辿り着いた者には、景品が出されるらしい。
「メイロ猫さまも可愛かったし、ひとつひとつが良い想い出になったよ。面識無くても暖かく迎えてくれたしね」
「成程、迷路だけではなく、喫茶店としても良い店だったということだな」
 だからこその2位受賞かと、鉄平は小さく頷いた。
 ちなみに……お帰りの際は、裏口からまっすぐ外に出ることができます。

●審査員特別賞〜お茶所 『凪』
 中庭に面した一階の一般教室……そこは、涼しげな和喫茶となっていた。
「おめでとう。この店が審査員特別賞だ」
「「やったーーー!」」
 鉄平の声に、店員たちが沸き立った。
「神和神社の料理人として、腕を奮うことができました。綾乃さん、久臣さんありがとうございます」
 厨房で腕を振るっていた青年が、店員仲間に感謝の言葉をかける。
「皆さんが料理を口にした瞬間に零れる笑顔が何よりの報酬ですね」
「料理を作るのが好きなのか」
「はい。将来の目標は皆さんに喜ばれるパティシェかな?」
 そう言って、素敵な笑顔を見せてくれる。
「綾乃殿が頑張ってくれておるからのぉ〜こちらも汗をかかねばの」
 また別な店員は、額の汗を拭いながら、ころころと笑い声を響かせる。
 そんな中、突如店内に、客の悲鳴が響き渡った。
「!!?」
 驚いて振り返ると、顔を真っ赤にして口元を抑えているではないか。
「どうした! 何があったんだ!」
「ハバネロのロシアン団子食べたっス!! 舌がびりびりして、ラムネ飲んだら大変なことになったっス!!」
「ろ、ロシアン団子……」
 傍らに置かれていたバケツプリンも驚きだが、その団子も、また驚きである。
「皆さんの笑顔がロシアン団子で見られて、とても楽しかったですねぇ〜」
 笑顔……いや、悲鳴。
 しかし何れにせよ、楽しげであったことには変わりはないようだ。
「鉄平さんもおひとついかがですか?」
「いや、俺は遠慮しておこう……」
 ハバネロ団子から逃げるように店を出た鉄平は、いよいよ、第1位の喫茶店へと足を向けた。

●第1位〜もふもふカフェ「にゃんばーわんR☆」
 ギュィィィーーーーーーーーーーン、バラララララララ、ジャンッ!!!
 愛用のギターをかき鳴らし、暫し鉄平は悦に浸る。
 そして徐に、第1位に選ばれた喫茶店の扉を開けた。
 するとそこには……!
「いらっしゃいませ☆ もふもふカフェ「にゃんばーわんR☆」へようこそ☆」
 そこは、もふもふ達の癒し空間だった。
 まず元気に出迎えてくれたのは、前部長の叶だった。
「おめでとう、この店が喫茶部門の第1位だ」
「ありがとうございます! 団長の椛ちゃんの分まで分まで、皆で頑張った甲斐があります!」
 そう言って、嬉しそうな笑顔を浮かべれば、他の店員や客達からも歓声が上がる。
「ん、いらっしゃいませじゃの」
 猫耳メイド姿の店員が、早速案内を申し出てくれた。
「こちらは猫や犬と戯れる事や、軽食を楽しめる場となっておるのじゃ。ささやかながらの安らぎをご堪能くだされ」
「あぁ、有難う」
 促されるまま、デブ猫クッションに身を沈め、渡されたメニューに視線を落とす。
「おぅ♪ らっしゃい♪」
 執事にしてはフランクな、けれどそれがやけにはまる店員に、オススメのひとつである、わんこの顔が作られた「にゃんばーわん☆アイス(チョコ)」を頼み、もふもふスペースに視線を向ければ、沢山の客たちが、愛くるしい犬や猫と戯れていた。
「どうだ、ここの動物たちは。可愛いか?」
「はい〜♪ ネコとか全員人なつっこくて、ネコ好きにはたまらない感じですわねぇ♪」
 何故かポソリと「1匹除いて」と付け加えられたが、それはそれで、また楽しそうな雰囲気である。
「まあ、私は普通のネコより人間のね……コホン……わんこもよろしいですわね♪」
 その言葉に、何人かの客と店員が、すぅーっと視線を逸らした気がした。
 気を取り直し、また別な客にマイクを向ける鉄平。
「この店を訪れた理由は、なんだ?」
「友人の勧めで? ネコまみれになって転がってたけどね、友人は」
「成程」
「イヌネコ好きにはいいんじゃないかしら、全員なつっこかったしね」
 そう他人事のように言う彼女だが、彼女もまた、沢山のもふもふ達に懐かれていた。
「その子犬たちは、随分お前に懐いているな」
「白丸……黒丸……とても……良い子♪」
 白と黒の子犬を抱え、幸せそうに微笑む少女。
「……店員さん……や……碎花ちゃん……とも……お話……いっぱい……出来……た♪」
「そうか、それは良かったな」
 つられるように、鉄平もまた笑みを浮かべる。
「ねこだー☆ ねこだねこだねこだねこだねこだねこだねこだねこだねこだねこだねこだねこだねこだねこだねこだねこだ」
「にゃー」
「ねこだー♪」
 感極まってか、猫だまりにダイブする客もいる。
「……潰さないようにな」
 思わず、そう声をかけずにはいられない。

 もふもふスペースだけはなく、カフェスペースもまた、良い安らぎ空間となっている。「去年の激辛の上を行く「地獄辛カレーライス」ガ絶品だったヨ。神楽が拘りに拘りぬいて完成させた一品らしいガ」
 そう言って、とある客が見せてくれたのは、見た目からしてからそうな、鮮やかな赤いカレーだった。
「これはまた、辛そうな逸品だな」
 にゃんばーわんR……まさに、Rに恥じぬ進化ぶりである。
「改めて言おう、おめでとう! この店がナンバーワンだ!!」
 ギュルルィーーーーーーーン!!!
 そして再び、店内にギターの音が響き渡った。

 審査を終えた鉄平は、校庭に佇み、沈みゆく夕陽を見つめていた。
 こうして順位をつけはしたものの、どこの催し物も素晴らしいものばかりだった。
「久しぶりに、楽しい時を過ごすことができた」

 さて暫くは、この余韻に浸りながら、静かにバラードでも奏でようか。