玖田・時那

<竜宮城決戦 侵攻開始!>


 ゴーストの巣窟である「竜宮城」の直上。
 客船の甲板に集った能力者達の元へ、一枚の美しい羽衣が運ばれて来ていた。
 その羽衣こそ天女の羽衣。今回の戦いのために使われるメガリスだ。

 玖田・時那(ソニックブルーム・b16160)は、やや緊張を湛えた表情で周りの能力者達を見渡し、そして声を張り上げた。
「今こそ、生命賛歌を発動させる時です! 心を一つに! メガリスに意識を集中して下さい!」
 頷きと共に、能力者達は一斉に羽衣へと意識を集中させる。
 手と手は自然と繋ぎ合わさり、天女の羽衣を中心として、見えざる力が潮香る海上に渦を巻く。
 やがて渦を巻いた力が限界まで高まると同時、眩い閃光が迸った。
 その眩さに能力者達が目を閉じた瞬間、体の内から、偉大なる生命の賛歌が湧き上がる。
 銀誓館学園のメガリス破壊効果、『生命賛歌』がその効果を顕したのだ。

「さあ……行きましょう、皆」
 溢れる生命の力を感じながら、イルミット・ペルヴェール(パーペチュアルフレイム・b10863)が静かに告げた。
 時間が惜しいとばかり、能力者達は次々に潜水用具を身につけると、乗り込んでいた客船から海へと飛び出して行く。

「皆さん、潜る準備はOKですね?」
「おう! ダイビング教室で、きっちり潜り方は習って来たぜ!」

 壮行会で行われたダイビング講座、その成果は確実に現れていた。
 ウェットスーツに身を包み、ボンベを背負った能力者達は、静かに海底を目指す。
 泳ぎに自信のある能力者や水練忍者の中には、そうした装備も無しに悠々と竜宮城を目指す者もいた。
 茹だる様に暑い海上と比べ、海の中は一転して冷たさに満ちている。
 群青の海を往く能力者達の目に映る海は、水の中でなければ歓声を上げたくなる程に美しいものだった。夏の終わり、仲間と共に海を往く能力者達の心に、その光景は確かに刻まれる。

 進むにつれて海の青は次第に深く、周囲を照らし出すのは能力者達のつけたヘッドライトの灯ばかりとなっていった。
 水温は次第に低くなり、ウェットスーツをつけていない能力者達は、その冷たさに身を震わせる。
 そして下へと進むにつれ、そこにあるものが欠けている事を、能力者達は気付いた。
 魚が、いないのだ。
 潜ったばかりの頃には見えていた魚達の影が、深みへと至るにつれて数を減じている。
 そして、静謐に満ちた海の底に、輝くものを認めたジョフロア・モンストルレ(亡霊猟兵・b15471) は、思わずその目を細めていた。
 能力者達がつけたヘッドライトの灯りすらも圧して眩く海を照らすのは、銀色の巨大な輝きだった。
 まるで綺羅に満ちた城の如く、海底に輝く巨大な泡のドーム。それこそが、

(「竜宮城……!」)

 美しく銀に輝く泡の内に蠢くゴーストの数は、まさしく数え切れない程のものだった。
 その事実を認識しながら、能力者達は慎重に泡のドームへと近付いて行く。
 生者の気配を感じ、ざわめき始めるゴースト達を他所に、彼等は手薄な一角から泡の中へと突入していった。
 体を取り巻いていた水の感覚が消え失せる。
 シュノーケルを外し、空気を吸い込んだ能力者達の口から、安堵の息が漏れた。

「報告通り……この泡の中なら、地上と変わらないな」
「なら、普段どおり……ゴーストを倒していけるって事だな!」

 開放感を覚えつつ、能力者達は次々に詠唱兵器を手に取った。
 身につけていたダイビング用品を取り去り、戦闘態勢を整える能力者達に、生者の気配を感じとったゴースト達が襲い来る。
 生者の気配を感じてゴースト達が襲い来るが、能力者達はそれを寄せ付けなかった。
「フン……これだけの数だ、負けるわけが無い」
 獅堂・陸(氷咆王閃・b18877)が、手近にいたゴーストを切り伏せながら一人ごちる。
 泳ぎの疲れも感じさせない動きで、能力者達は次々にゴーストを駆逐していく。
 動くゴーストの姿がその場からなくなるのに、そう時間はかからなかった。

「侵攻開始ポイント、確保完了!!」
「さあ、メガリスを確保しに行きましょう!」

 侵攻開始ポイントから西には『深海魚の水域』が、南には『海底地獄地帯』が存在している。
 竜宮城に集うゴーストの脅威を掃うため、『生命賛歌』の力を受けた能力者達は、自分達の進むべき方向へと進んでいった。