四堂・直矢 & 小鳥遊・歌戀

●【聖夜】公園の二人

 クリスマスデートの帰り道、直矢と歌戀は公園のベンチでひと休みしていた。
 夜になって寒くなってきたからか、辺りには、ちらちらと小雪が舞い始めていた。街灯に照らされた雪は綺麗だけれど、でも、少しずつ2人の身体を冷やしていく。
「雪降ってきたけど、寒くないか?」
「ん……ちょっと冷えますわね。でも」
 きゅっ。
 歌戀は直矢に抱きつくと、「こうしていれば暖かいと思いますわ」と笑う。
「こ、こらっ。離れろっ」
「いーやーでーすーわー」
 歌戀の行動に思わず言う直矢だが、歌戀は不満そうに首を振る。その腕は、ぎゅうっと直矢に抱きついたまま。
「カレーン!」
「ふふ、直矢さんあったかいですわ〜」
 どれだけ直矢が言っても、歌戀は決して彼から離れようとはしない。憮然とした顔をする直矢だが、その顔が少しだけ赤く見えるような気がするのは、きっと気のせいでは無いはずだ。
「……たくっ。仕方ないな……」
 ぎゅーっと抱きついて、ぷくーっと頬を膨らませて。
 そう見上げてくる歌戀に、結局直矢の方が折れた。
(「直矢さんったら……」)
 そんな彼の様子に、くすくすっと歌戀は小さく笑む。
 直矢の否定的な言葉は、彼の想いの裏返し。歌戀はその事をよーく解っているから、彼に抱きついたまま離れないのだ。
 そうして伝わってくる温もりは、言葉とは裏腹な直矢の想いと同じものだから……それが嬉しくて、心地よくて。歌戀は彼に抱きついたまま、そっと目を閉じる。
「………」
 そんな歌戀の様子に、直矢はちょっとだけ苦い顔。
 決して、怒っているわけではない。伝わってくる彼女の温もりが、不快な訳でもない。
 ただ、寄り添ってくる彼女の姿を見下ろして……そっと、左手を上げて、触れようとして。
 でも、それをなかなか出来ないだけ。
 彼女の肩を抱きしめたいのに、思いきる事ができない自分へのジレンマ。照れ臭そうに顔を赤くして逡巡しながら、直矢はそっと指先を動かして。でも、その手を、やっぱり触れる前に止めてしまう。

「来年のクリスマスも一緒ですわよ? 約束してくださいまし」
 直矢がそんな戦い(?)を繰り広げてしばらく。歌戀はふと、そう直矢に囁いた。
 それは、直矢が抱いている想いと同じもの。
「……ああ、約束する」
 そう一言だけの短い返事と共に、直矢は宙に浮いていた左腕で、彼女をぎゅっと抱き寄せた。
 その感触に顔を上げた歌戀は、心の底から幸せそうな笑みを浮かべた。

 どれだけ雪が降っても、寒くない……あなたが、一緒だから。




イラストレーター名:ちー