●† Crescent Moon †
聖なる夜に、こっそりと秘密のデート。
学生だから健全なデート。だって門限もある。けれども大好きな人と一緒ならそれが何よりの祝福。
冬の黒い黒い夜空に、瞬くのは白い月。今日は空で瞬く星よりも、地上で瞬くイルミネーションの星たちに目を奪われる。
そろそろ、幸せな時間も終わりに近づいてくる。
たどり着いた先は街角の大きなツリーのもと。
「ね、紅遠」
「何ですか? 一夜」
しばらく大きなツリーを見上げていた時、一夜が隣の紅遠の横顔に話しかけた。振り返った紅遠は何だろうと無邪気な表情をしている。そんな紅遠に小さな我が儘をねだった。
「あのね……」
一夜が取り出したのは、デートの途中で買った一人で巻くには長すぎるマフラー。デートの途中で何に使うつもりなのかと、紅遠が尋ねても一夜は何も言わずに小さく笑って誤魔化した。
だってそれはいつものように変わらない悪戯で使うつもりだったから。
そういつもの戯れ。
けど……今日は、今日だけは、そこに自然と精一杯の愛情が込められる。
「大好き。だよ」
一夜がふわりとマフラーを紅遠の首にそうして自分の首に巻く。ふわふわの同じクリーム色にくるまった二人。
「はゎ……ちょ、それは反則……!」
突然の出来事と、耳のすぐ側で聞こえてくる一夜の甘い言葉に、紅遠が頬を赤くして慌てている。
そんな彼女の表情やしぐさが、自分にとっての最高で最上のプレゼント。
近くなった愛しい彼女の体。離れてしまうのが勿体ないから、そのままぎゅっと抱き寄せる。
来年も再来年もずっとずっとその先も、こうして抱き寄せてすぐそこにある、彼女の事を感じながら、耳元でずっとずっと甘い言葉が彼女のために紡げるように。
「メリークリスマス、紅遠。いつまでも二人一緒に居ようね?」
耳元すぐそこで聞こえる一夜の言葉に、頬を赤くしたままの紅遠は小さくけれどもはっきりと頷く。
一夜が思う気持ちと紅遠の想いは同じだから。
それは弧を描く月の一夜に願う、たった一つの久遠の絆。
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