●メリークリスマス ――プレゼント交換――
大きなクリスマスツリーの下で、翼は音を待っていた。
以前から、ちょっとだけ気になっていた彼女を誘って過ごす、はじめてのクリスマス。
もうそろそろ、待ち合わせの時間だ。
彼女はまだだろうかと、辺りを見回す翼。その動きが、どこかぎこちなく見えるのは、相棒の風太が傍にいなくて……彼女と、2人きりな事を意識してしまっているせいなのだろうか。
「お、お待たせしましたわ!」
やがて駆け込んできた音は、真っ赤な顔で翼の前に立った。
彼女の心臓がばくばくいっているのも、動悸が激しくなって止まらないのも、きっと急いで来たせいだけでは無いはずだ。
だって、今日の相手は、あの翼なのだ。
……ずっと片思いしてきた相手から誘われて、その約束の場所へ行くのだから。
(「ね、ネジがうっかり飛んでしまわないように、気をつけませんと……!」)
そう心の中で言い聞かせて、音は頑張って平然を装おうとする。
「え、えと、あの」
小さく深呼吸して、音は両手に抱えていた包みを、翼に差し出した。
それは、この日のために何日も前から準備しておいた、手編みのマフラーだ。
「これ、翼先輩に。……気に入って頂けると嬉しいですわ」
「俺に?」
問い返す翼に頷き返せば、彼は凄く嬉しそうにそれを受け取る。
「大事にするぜっ、ありがとな!」
そう言ってくれたら、自分も凄く嬉しいと目尻を下げる音。そんな彼女に、実は俺からもプレゼントがあるんだ、と翼は小さなジュエリーケースを取り出す。
以前フリーマーケットで見かけ、いつかプレゼントしようと思っていたものの、チャンスが無くて渡せずにいた銀のペンダント。ようやく、渡す機会に巡りあえたようだと、翼はそれを持って来ていた。
「これ、気に入って貰えりゃいいんだが……」
「わ、わ……!」
それを、音は本当に嬉しそうに、そっと両手で受け止めた。
「有難うございますわ……大切にします……!」
ぎゅっと、そっと胸の中に抱きしめる。
まさかプレゼントを貰えるだなんて。嬉しくて、ちょっと照れ恥ずかしくて……頬を赤くして翼に笑いかける。
彼女に、同じように笑顔を返しながら、ふと翼は、いつの間にか緊張が解けている事に気付く。
「じゃあ……」
これから、どこに行こうか?
クリスマスツリーの下、お互いへのプレゼントを交換した2人は、そのまま並んで歩き出した。
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