●茜に輝く指輪二つ
クリスマスパーティーの途中、疲れた沙耶を休める場所へと連れ出した白。
空き教室はひんやりとしていた。
窓辺で静かにたたずむ沙耶と白。
空白の時間を遮ったのは白。
窓に背を預け立っている白が、隣の沙耶の顔を覗き込むように声を掛ける。
「……沙耶、だいじょうぶ?」
「……大丈夫だ。心配をかけてすまない、白」
「……きにしない」
沙耶が白の声に誘われて、彼の方を見る。その顔には僅かな微笑みが浮かんでいた。そんな彼女の肩を抱き寄せ紡ぐ白の言葉。その言葉に頷くように、沙耶は彼の身体に身を預ける。
寄り添うふたつの影。
流れ行く静寂の時間。
相手のことをとても近くに感じられる。
「指輪、ありがとう」
再び静寂を破る白の言葉に、彼の胸に顔を埋めていた沙耶の顔が上を向き、白を捉える。
「……ああ。……これで、おそろいだな」
「……そうだね」
『約束』を意味する白詰草を模した沙耶の指輪。 『清純』を意味する胡蝶蘭を象った白の指輪。 二人の左手の薬指に嵌められたそれは、沈み行く茜色の夕陽に淡く輝く。
ちいさな銀の指輪を相手に見えるように、互いに目の前にかざす。
白の左手と、沙耶の左手。
指先が絡み、そのまま手を繋ぐ。
ずっとこうしていられるように、直ぐ近くにいる愛する相手の顔を見つめる。
―――ただ、そばにいたい。
冬の日は傾きだせば、すぐに沈み行く。
もうずっとここで、二人で寄り添っていく。この教室にやってきてから、大分と時間が経っているが、そんなことはどうでもよかった。
繋いだ手。絡まる指。すぐ近くに感じる相手の存在、その体温。
その全てが愛しく、この時間が過ぎていくのが少し切ない。
二人でクリスマスを過ごす予定だったけれども、そんなことは些細なことだというのが、動かない二人からわかる。
今はこうして、相手の事を直ぐ近くで感じられることが幸せ。
繋いだ手から感じる相手の体温。
撫でられる頭の感触から、相手の優しさを感じる。
そっと抱きしめあえば、胸を締め付けるほどの幸せを感じることができる。
今はただこうやって、相手の事を感じていたい。
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