●日本式・楽しいクリスマスの過ごし方
駅前の広場はとても賑やか。
大きな煌くクリスマスツリーに、友達同士やカップルの沢山の人たち。
「何故クリスマスを家族と過ごさないのか……日本人の感覚が判らない」
今日何度目かの同じ台詞。
煌く大きなクリスマスツリーと行きかうカップルを見比べて吐息を吐き出すヴォルフ。
「家族じゃなくて、友達と一緒に騒ぐのって楽しいだろ?」
ドイツ出身のヴォルフにしてみれば、この日は家族で過ごすことが当たり前のことで、目の前で友達や恋人同士で楽しそうな人たちを見ては首をかしげ、洸耶の言葉に更に首をかしげる。
「だからさ、こうやって一緒にきてるんじゃないか」
首を傾げたり難しい顔をしていたりするヴォルフに、ホラ。と、自分を指差してから、大きなクリスマスツリーを指差す。
洸耶の指先を追ってヴォルフの視線も動く。
賑やかな駅前。
これから食事に向かうカップルや、楽しげに会話をしながら通り過ぎていく友達らしき数人のグループ。
大きな大きなクリスマスツリー。
ドイツでみていたものよりか、派手に思えるのは沢山の電飾のせいだろうか。
そうしてクリスマスツリーを中心として、あちらこちら沢山の電飾で飾られて、イルミネーションを瞬かせる。
それは光の洪水。
派手だとも思うけれども、キラキラと輝くのは純粋に綺麗だともおもう。
洸耶にくいっと腕を引っ張られて、すぐ横にいる彼女に視線を落とすと、そこにはとてもにこやかな彼女の顔があった。
「友達同士ならクリスマスというのを大義名分にして騒げるし、カップルならそれこそ寒いのを理由にここぞとばかりに引っ付けるし、それにこのロマンチックな風景を恋人と楽しみたいじゃないか」
日本式のクリスマスの楽しみ方をヴォルフにあれやこれやと、説明していく。ヴォルフも静かに洸耶の説明を聞きながら、イルミネーションやその灯りを盛り上げるために配置されている、天使やサンタ、トナカイなどの置物を眺めたりする
「な? 家族も良いけど、友達と過ごすのも悪くないだろう?」
満面の笑みをヴォルフに向ける洸耶。
その笑みをまじまじと見つめ返すヴォルフ。
しばらくの空白の時間の後、ヴォルフの唇が動いた。
「何故クリスマスを家族と過ごさないのか……日本人の感覚が判らない」
何度目か分からない、ヴォルフの言葉。
洸耶ががんばったものの、ヴォルフには日本式クリスマスの過ごし方が伝わらなかったようだった。
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