●どこか古くて新しい
暗幕の壁を照らすランプの炎がゆらりと揺らめいた。教室を区切って作られた個室は狭くはないが広いとも言えない。テーブルを挟んで二つの椅子のみが置かれた室内で向き合って座るツカサと璃御の瞳にはお互いの姿が映っている。
「……まぁあれだ。これはお前がどうしてもというから付き合ってやるんだからなっ!」
「二人だけ」で個室にいる以上相手か自分が話さなければ、室内は静かで、璃御はその雰囲気に慣れないからか、間が持たなかったのかつぃとツカサから視線を逸らし、泳がせた視線は目の前のカップへと留まる。
「良い茶葉を使っているな」
その声に視線を前へと戻せば、ツカサは湯気の立つカップを口元に運んでいた。やや赤みがかった琥珀色の液体は、立ち上る湯気と共に良い香りを運んでくる。
「た、確かにな」
頷いて、璃御も紅茶のカップを口元へと運んだ。温かな液体が喉を通って身体を内から温めほうっと吐き出す息すら熱を帯びているような気がする。だが、自然と表情が綻んでくるのは紅茶が美味しいからではない。久しぶりの二人っきりと言う事実がそうさせるのだろう。
「紅茶と言えば……」
この機を逃すかと言うかのように璃御は言葉を続ける。せっかくの時間だ。話したい事は沢山ある。
「ああ、璃御」
「で……ん?」
会話は進んで、話題が幾つも通り過ぎた頃、ツカサの声に顔を上げた璃御の唇に何かが触れていて。
「なっ……お、おまっ、なに……うがーっ!」
「周囲の迷惑になるぞ」
硬直の後、目を白黒させていた璃御が顔を真っ赤にして吼えるのをツカサは涼しい顔でたしなめる。
「ん、何、璃御の唇見てたらキスしたくなったのでな、だからしてみただけだ」
更に続けられる言葉は飄々と。
「と、とにかく、その……好きだぜ、ツカサ」
璃御はしばらく唸っていたが、ようやく落ち着いたのか視線は逸らしたままポツリと呟いた。いつの間にかほとんど空になった二つのカップからは立ち上っていた湯気が消えている。璃御の顔はまるでその熱気が移ったかのように赤く、そっと洩らされた吐息にすらその熱が篭もっているかのようだった。
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