榊・由弥 & 獅堂・雅輝

●雪降る夜に願う事は?

 ぶら下がるダンボール製の看板。その横をくぐれば、いつもと様変わりした教室が由弥を待ち受けていた。カーテンの閉め切られた教室内を照らすのは簡易スポットライト。その大半が手作りのステージへと向いていて会場はさしずめ即席クラブと言ったところだろうか。
「折角の祭りなんだしよ、騒がないと損だろー?」
「ま、そうだな」
 由弥が雅輝の姿を見つけたのはそんな教室へ入って暫くのこと。ちょうどターンテーブルの方へと向かおうとしていたらしくヘッドホンを首にかけていた雅輝は、相づちを打つとやはり置かれていたターンテーブルの方へと歩み去って行く。
「がんばれよ、あとで見に行くからなー?」
 悪友の背に由弥は声をかける。

「よー、中々のDJっぷりだったじゃねえのー?」
「今日も二人、仲が良くてー」
「勘違いすんなよ、……と一緒なのは別に1人でここ来るのが空しいからってワケじゃねーかんな!」
「へぇー」
「……あ違っ、いや、そういうのじゃなくてー!!」
 宣言通り飲んで騒いだ後、実際にちょっかいを出しに言って逆襲されたりしていた様だがこれは別のお話。

「やっぱ皆で騒ぐのが一番楽しいな!」
 この時期はどの教室も賑やかで、教室を移動した由弥は参加していたボードゲームを勝ち抜け、ちょうど手持ちぶさたになったところで窓際に雅輝の姿を見つけて近寄った。雅輝は雅輝で、DJの休憩中なのか首にヘッドホンをかけたままオレンジジュースの缶を持って窓に寄りかかっている。
「……っとあれ、ひょっとして雪降ってる?」
 歩み寄ってきた由弥の足が一瞬止まって、視線も雅輝から窓の外へと移った。確かに、窓の外を見ればふわりふわりと冬の風物詩が舞い降り始めている。
「……お、雪か。良いな、ホワイトクリスマスって感じで」
「うおー、すっげー!」
 由弥の声に振り返った雅輝がポツリと呟く横で、ガラガラと音を立てて窓が開き、声を出した当人は身を乗り出して空を眺める。
(「……しかしまぁ、嬉しそうな顔してんな。こういう部分はやっぱり女の子だな」)
「やっぱ何度見てもすげー綺麗だなー。……ん、何だ?」
「何でもないよ」
 ふと感じた視線に振り向いた由弥へ雅輝は微笑したまま返してジュースの缶を口元へ運ぶ。
「ダチと騒げて雪も降って、ホントこんな楽しいクリスマスは初めてだ」
「あぁ。また来年もよろしくな、相棒?」
 頷いた雅輝は、言外に「来年もこんなクリスマス、迎えられると良いな」と込めて言う。再び窓の外へ視線を戻した親友にむけて。
 振り向いて返事を返す由弥の後、窓の外では白い雪の結晶達が変わらずダンスを踊っていた。




イラストレーター名:緒方裕梨