国崎・端誡 & 織田・夏姫

●ふたりのクリスマス

 クリスマスということもあってか、墓地ですれ違う人の数も片手の指で足りるほどしかなく、端誡が行きに目にした鴉達すら帰り道では寂しげな鳴き声一つ耳にすることはなかった。
「……これで、二回忌か……」
 人気の無い道でポツリと呟きをもらしたのはつい先ほどだった気がするのに、周囲には寂しいほどの静寂も周囲の大半を占めていた闇もない。今、端誡の目に飛び込んでくるのは、温かな屋内からの光と街路樹を彩るイルミネーション、それに街を行き交う人々の幸せそうな笑顔だった。
「あの頃は……俺も」
 ふと目を閉じると、昔に帰れるような気さえして端誡は目を細める。
「あっ」
 過去の記憶と今が重なったように見えて、聞き覚えのある声に振り向けば口を開けこちらを見る夏姫の姿がある。
「夏姫?」
「どうして」
 「あんたがこんな所にいるの」と思わず口にしかけて夏姫は口をつぐんだ。その理由も日付と地理と思い出が教えてくれていたのだから。
「あ、ああ。ちょうど帰り道だ。それより夏姫こそ」
 何処かぎこちなく「何故ここに居るんだ」と問えば、「妹のプレゼント探しよ」と夏姫は顔を背けながら答える。
「手伝おう」
「え?」
 周囲の喧騒を置き去りにしたような二人だけの沈黙を得て、端誡がポツリと口にした言葉に驚いた顔で夏姫は顔を上げた。前を見ればこちらを向いた右半身から腕だけがさりげなく伸びていて。
「そうね。今日だけは……」
 少し躊躇した後、夏姫は既にほとんど背を向けていた端誡の手を握った。手袋越しの感触に一瞬驚いたような表情で端誡が振り向くが、何か得心したのか何も言わず再び前を向く。

「あれはどうだ?」
「ちょっと、好みとは違う気がするのよね」
 いつの間にか会話のぎこちなさもだいぶ薄れていて、夏姫と端誡顔を見合わせてプレゼントを選ぶ二人の姿が店頭にあった。

「今日だけは、昔の仲で……」
 それが言葉には出さないものの二人が共に思う事。
 いつの間にか二人は、幸せそうな家族連れや恋人達……周囲の景色と違和感なくとけ込んでいた。まるで昔のように。




イラストレーター名:志村コウジ