笠原・氷影 & 暁・紅也

●ふたりのロンリークリスマス


「クリスマス……予定も無いしここはお泊り会でも!」
「男2人かよって気がしないでもないけど……まあこれもアリかな、うん」
 「自分の家で」と補足した氷影の言葉に僅かに呻いたものの紅也は頷いた。一人で居るよりは退屈も紛れる気がしたのだろうか。
「クリスマスって楽しく過ごすのが目的だしいいよねっ」
 賛同を得られた氷影も何処か乗り気で笑みを浮かべ自分自身に言い聞かせるかのように頷く。それが全ての始まりだった。

「雪だるま完璧」
 暗くならない内にと作業を始め、氷影が言葉と共に厚手の本を閉じた頃にはマフラーをした立派な雪だるまが鎮座していた。雪だるまはこれで作成済。
「メリークリスマス!」
 室内へと戻った二人は続いてプレゼント交換へ。あけられた箱が無造作にリビングの隅に転がっても、二人が気にしなければ気にする者は誰も居ない。
「テレビでも見るか」  プレゼントだけで間が続かず、テレビの電源を入れれば電飾に飾られた街の景色が二人の目に飛び組んでくる。チャンネルを変えても、現れたレポーターが歓声を上げながらケーキを頬張っているだけで、次々に切り替えられる映像に映るものはクリスマス一色。
「面白くないし、ゲームでももう1回……」
 同意を求めて相手を見る氷影の言葉に、紅也は肩をすくめて視線で床を示した。
「飽きましたか、はい」
 示された床には楽しんだ時間の名残がパックリと口を開けて重なり、一番上のゲームソフトに至っては付属の説明書が遭難中である事をささやかに主張している。よく見ればホールケーキの箱の下にそれらしい物の端が見えたような気もするが、上に乗った倒壊注意のケーキを動かす必要もあって、意識せず説明書を探していた紅也はケーキの箱から目をそらす。ケーキはもう食べ飽きた。
「ケーキはもう食べたくないし……」
 おそらく同じ物に目を留めたのだろう、氷影の呟きを耳に同意を示すように頷く。彷徨う視線が次に止まったのは……。
「映画のDVD」
「DVD? 今更雰囲気出してどうするの」
 「偶には見てよ」と主張していそうなラックの住人の願いはあっさり断たれ、視線はつけっぱなしだったテレビに。クリスマスソング共に流れる遊園地の光景はかき入れ時と言う事もあってか園内を歩くきぐるみのキャラクターが楽しそうに手を振っている。
「遊園地とか行く? ほらクリスマス仕様楽しいかも」
「遊園地? 男2人で?」
 「うわぁ」と声をあげて何とも言えない表情をした紅也は座っていたソファーで思わず仰け反った。それから暫くの沈黙。
「なんか地味に付き合い長いね俺ら。まあ、銀誓との付き合いと同じ位?」
「あー、うんいいんじゃない。長いものには巻かれ……あれ、違う? ま、いいよね」
 何気なくかけられた声に氷影は読んでいた本から顔を上げ、自分の言葉に一瞬首をかしげながらも笑顔で頷く。ちょうどお互いにすることの思い付かなかった二人の会話がそこから再び始まって。
「そろそろどうにかなんないの? そのぼっちゃんがり」
「ひっど……! こうなったら髪伸ばしてやる……」
 時には楽しげに、時には騒がしく。少なくともそこに先ほどまでの退屈はなくて。
「ま、とりあえず、これからも宜しく」
「うん、宜しくっ。末永くお世話して下さーい、なんてね」
 後半の冗談まで聞こえていたのかどうか、クッションに身を預けて紅也は目を閉じる。
「おやすみ、起こしたら殴る」
「(布団布団……)」
 物騒な一言を残して反応の消えた紅也のとなりで、騒いで疲れたのか氷影も目を閉じた。一つ屋根の下夜は更けてゆく。




イラストレーター名:秋月えいる