●聖夜の訪問者
人々が寝静まった真夜中の町。
そこに、サンタ服姿の1人の少女が歩いてくると、一軒の家の前で立ち止まった。
(「私だけ驚かされっぱなしは、フェアじゃないものね」)
去年のクリスマスは、サンタ服姿の北斗が突然現れて、とんでもなく驚かされたから……だから、今年は仕返しに、私が驚かせに行ってあげよう。
そう思い立った絶佳は、こうして彼の家にやって来たのだ。
(「――少しくらい悪戯したって、罰は当たらないでしょう?」)
くすくすと笑いながら、そっと彼の部屋のドアを開ける。
夜の街を歩いてきたからか、暗闇にはもうすっかり目は慣れていて。かすかな寝息を頼りに、眠る北斗の方へと忍び寄る。
「……全然起きる気配がないわね……」
枕元まで近付いて、絶佳はそっと呟いた。でも、すっかり寝入っている北斗は、その声にも目を覚ます様子は無い。
寝ている彼の服がサンタ服なのは、また去年のように、朝になったら自分を驚かせに行こうと考えているからだろうか。
「ふふ、今年は私の勝ちね」
してやったりという顔で、絶佳は用意しておいたプレゼントを取り出した。
起こすのも可哀想だから、枕元にプレゼントを置いて、そっと離れようとする絶佳だが……。
「……っと、いけない。忘れるところだったわ」
下がろうとした足を止めて、くすっと笑うと、反対に北斗に近付く。
そして、そっと……彼の額にキスをした。
触れた感触は僅かな時間だけのもの。すぐに、彼から離れるけれど……。
(「寝てる時でもないと、させてくれないものね」)
相変わらず眠ったままの北斗を見下ろし、そうくすくす笑って、絶佳はそっと囁いた。
「……メリークリスマス♪」
かすかにドアの音が聞こえたような気がして、北斗はぼんやりと瞼を開けた。
周囲を見回しても、誰の気配も無い。けれど、かわりに見覚えの無い小箱がある事に気付く。
誰かが置いた、プレゼント。
綺麗にリボンが掛けられたそれを持ち上げ、北斗は笑う。
それが、誰からの贈り物なのか、気付いたから。
「………」
軽く小箱を放り上げると、北斗はそれを大切そうに、しっかり両手でキャッチする。
それまでよりも、もっと、もっと深い笑みを浮かべながら。
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