●英国の屋敷にて
冬休みに莱花は、故郷であるイギリスに戻ってきていた。
戻ってきたとたん、あちこちの社交場に呼ばれ、忙しい毎日を過ごしている。
その莱花の隣には、いつもアキシロの姿があった。
こういう時期には、莱花の家の財産目当てに近づく者も多い。
アキシロはそれを警戒しながら、ずっと莱花の側についていた。
「このドレス、似合うかしら?」
夜の晩餐に備えて、莱花はプレゼントとして大量に届いたドレスやアクセサリーを吟味している。
「とても似合っておりますよ」
側にいるアキシロは、いつものように微笑を浮かべた。
思わず莱花も笑みを見せるが……。
「久しぶりに故郷の英国へ戻って来たのはいいけど、何だか堅苦しいわね。日本にいる時の方が気楽だわ」
故郷に戻ってきたこと自体は嬉しい。
けれど、こう何度も社交場に呼ばれると、流石の莱花も疲れてしまう。
「パーティーが終わって、家に帰ったら……もっとのんびりしたいわ」
それは、きっと莱花の本音。
莱花は続ける。
「ねえ、アキ。お庭を散歩しない? 静かな夜を過ごすのもいいでしょう?」
そういって、アキシロを誘う。
「左様でございますね」
いつもの笑みでアキシロは頷いて見せた。
「ところでお嬢様、ブレスレットはお召しにならないのですか?」
どうやら、アキシロは次の社交場の準備に余念がないようだ。
「ブレスレットはもうあるわ。貴方に貰ったものが」
莱花は微笑んでそう答える。
二人はパーティーの準備を終えると、すぐさま会場へと向かった。
(「本当はアキシロと踊りたいのだけれど……」)
莱花は、別の男性と優雅に踊っている。
この男性と踊れば、次は別の男性が誘ってくることだろう。
それに……アキシロとは、踊れない理由があった。
自分の置かれている立場。
自分は主人で、相手は使用人。
許されるものではないのだから。
莱花は踊る。胸に秘めた想いを抱きながら。
そして、それは思い出となるだろう。クリスマスという名の思い出に。
彼女の腕には、アキシロが贈ったブレスレットがいつにも増して輝いていた。
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