鳥野辺・梓 & 月由・草餅

●「梓オレのになれよ!!」「……(聞いてない」

 淡いグリーンのタイルに囲まれて梓はボールと格闘していた。中に入るのは卵黄と砂糖、これから作るのはショートケーキのスポンジ生地だ。
(「梓がケーキ作ってくれる……俺のために」)
 草餅は頬杖を付きながらその姿を眺めていたが、クリスマスに二人きりと言う状況のせいかどうも落ち着かない。
(「今日も梓はかっこかわいいぜ……」)
 無言で黙々と作業を続ける梓を眺め、時には手伝い、ケーキが出来るまでの時間を少しずつ使っていったがそれでもケーキの完成までには随分時間があった。
「梓オレのになれよ!!」
 言葉をかけながら後ろから抱きすくめたのはちょうど生クリームをかき混ぜている最中。
(「手伝ってくれるのは嬉しいけど、後ろから抱きつかれると動きにくいんだよな」)
 ボールを手にした梓は苦笑しつつも振りほどこうとはせず、そのままの態勢でケーキ作りを続ける。そんな様子に草餅は小さく息をもらすが、でもそんな一生懸命に作ってる所も好きだなぁと思い直したように頷いた。
「お、出来たな」
 やがてオーブンからいい匂いが漂い始め、タイマーが生地の焼き上がりを告げれば残るはケーキのトッピングのみ。白いクリームで化粧されたケーキにイチゴが苑を描いて並べられると、飾りのサンタが中央に着地する。それは二人の為だけのクリスマスケーキ。出来たケーキは運ばれていってちゃぶ台の中央に鎮座した。

「ちゃぶ台にキャンドル……ってのもアリかな」
 呟き、蝋燭の火を眺めていると草餅の視線とぶつかった。
「草餅は何ジーっと見てるんだ、俺の苺はあげないよ?」
 向けられた視線に言葉を返すが草餅は横に首を振る。
「そうじゃなくて食べさせて欲しいって?」
 再び聞かれて今度は首を縦に振った。
「仕方ないなぁ」
 再度苦笑した梓はケーキの欠片にフォークを突き刺すとそれを草餅へと差し出す。
「凄くうまい!! うまいけど、こんなにうまく感じるのは、梓が食べさせてくれたからかな?」
 草餅はケーキを口にし満面の笑みを浮かべる。浮かべた笑みは梓の方を向いていて。
「幸せだなぁー」
「メリークリスマス。草餅……」
 内緒で用意してきたプレゼントを本当に幸せそうな表情を浮かべた草餅の側に置き、梓は囁いた。本当に聞いていなかったのかそれとも実は気がついていたのか、心の内を知るのはきっと当人のみなのだろう。二人だけの甘い時はゆっくり流れていった。




イラストレーター名:昭乃広海