草剪・ひかり & 唯鋼・神鉄

●大人への階段〜聖夜の、小さくて、大きな一歩〜

「うわぁ、すっごく綺麗です!」
 目の前に広がるのは、街をきらきら彩るクリスマス・イルミネーション。
 それを楽しそうに眺めながら、ひかりが歩く隣で神鉄は目を細める。はしゃいでいる彼女の様子が、とてもとても可愛らしくて。自分でも気付かないうちに笑みが浮かぶ。
 2人が付き合い始めてから、もうじき1年。
 学生として、そして能力者として。
 様々な出来事を一緒に体験しながら、2人はその絆を強めてきた。

(「……でも」)
 この1年の出来事を振り返る。大好きな神鉄と一緒に過ごしてきた日々のこと。そして、今日共に過ごしていること……ひかりの心は『しあわせ』で満ちていく。
 だけど、不満が無いといえば嘘だ。
 中学生と高校生。
 彼が自分の事を大切に扱ってくれていることは、分かっている。でも、それは、可愛い年下の女の子に対してのものだ。
 ……もっと、ちゃんとオトナとして扱って欲しいと思うのは、わがままだろうか?

 楽しいけれど、ちょっとだけ寂しい……。
 そんな気持ちを抱え続けるのは嫌だから、ひかりは立ち止まると、神鉄を見つめた。
「? どないしたん?」
 首を傾げる神鉄に、ひかりは思いきって切り出す。
「……いつまでも子供じゃないのです! もっと私を見て欲しいのです!」
 その言葉に、神鉄の口が「あ」という形に開く。
 彼女は、神鉄にとって、間違いなく大切な存在だ。でも、どうしても彼女の可愛らしさが先に立ってしまって、大人として……自分と対等としては、扱ってはいなかった。
 その事に気付かされて、ハッとする。
(「せやな……」)
 神鉄は真剣で、でもどこか不安に揺らぐひかりの瞳を見ながら考えると、ふっと笑って。
「……そんじゃ、今日のところは、こんなもんでどう?」
「きゃっ」
 神鉄は両腕を伸ばすと、ひかりの身体を抱き上げた。
 突然のことに驚いて、ましてそれがお姫様抱っこだと気付いて。ひかりの胸は一気に高鳴り、頬が真っ赤に赤くなる。
 恥ずかしくて、ドキドキして。
 でも……。
(「……嬉しい」)
 だって、それが自分の望んだことだから。
 愛する人の腕に抱きしめられて……大人への一歩を踏み出したような気がして。
 自然と笑みがにじんで、そのまま、神鉄と見つめ合う。
 交わされた視線は絡んだまま、そっと近付いて――。
 とても自然な出来事のように、唇が重なる。

「…………メリー・クリスマス…………」
 そっと触れ合った後、また視線が絡み合って。
 二人はどちらからともなく囁き合うと、互いに微笑んだ。




イラストレーター名:アズ