峰連・要 & 柚菜・希兎

●あなたに花を

「ゆず、散歩行かない?」
 賑やかなパーティを楽しんで、夕暮れの過ぎ去る頃。要はそう希兎を誘った。
 だって、今日はクリスマスだから。
 付き合い始めてから約半年、初めてのクリスマス。希兎が毎日クリスマスを楽しみにしていた事を知っているから、彼女に楽しんで貰いたくて。その為にどうしたらいいか考えて、要の出した結論がこれだった。
「うんっ。あ、でも、どこ行こう?」
 頷き返して、すぐに小首を傾げる希兎に、要はいい場所を知っているんだと笑う。
「へー、どこどこ?」
「内緒。着いてからのお楽しみ、だよ」
 そう口の前に指を立てると、要は希兎の手を繋ぎながら歩き出した。

「うわぁ〜!」
 やがて辿り着いたのは、大きなクリスマスツリーの下だった。
 どうやら夜はあまり人通りが無いらしく、人の姿はまばら。クリスマスにしては、かなり穴場といえるだろう。
「すごーい。綺麗だね」
「うん。今の時期しか見れないのが残念だね」
 希兎の言葉に頷き、要は嬉しそうに目を細める。
 やっぱり、彼女が喜んでくれるのが一番いい。彼女が笑顔だと、自分も凄く嬉しいのだ。
「ねねっ、カナくん。あっちも行ってみようよ」
 はしゃいで駆け出す希兎を、要はすぐ追いかける。大きなツリーの向こう側には、もう少し小ぶりのツリーが幾つか並んでいて、どれもキラキラ輝いている。  希兎はツリーとツリーの間で立ち止まると、周囲をぐるぐる見回して。ツリーに囲まれた光景を楽しむ。
「あ……っと、そうだった」
 そんな彼女を眺めながら、ふと要は思い出す。彼女にプレゼントしようと用意して、鞄に忍ばせておいた花のこと。
 それは、希兎が大好きなガーベラの花。
 花束もいいけど、どうせならお揃いのものを1つずつ持っていたいからと、お店で売られていたガーベラのうち、この寄り添うように売られていた2輪だけを買ったのだ。
 ……よくよく考えたら、1輪だけでは寂しいかもしれないけど、でも。
「ゆず、これ」
「あ、ガーベラ!」
 きっと喜んでくれるはず。
 そう思いながら彼女を呼べば、希兎は飛びつくように戻ってくる。
「プレゼントだよ。お揃いの。ゆず、どっちがいい?」
「じゃ、こっち」
 彼女が選んだ方を差し出して、要はメリークリスマスと笑う。
「ありがとう……メリークリスマス、カナくん!」
 受け取って、同じように笑う希兎。そのまま要の手の引いて、今度はあっちに行こうと歩き出す。
 要はその手を握り返して、彼女のすぐ隣を歩く。
 彼女が笑顔で居てくれること。ただそれだけで満たされる、幸せを感じながら……。




イラストレーター名:影日 行