●サプライズ・クリスマス?
サンタ服姿の少年・リエンは、茜華が暮らすアパートの一室を目指していた。
(「……先輩、どんな顔するかな?」)
だって、今日はクリスマスだから。
いつもなかなか表情を変えたりしない先輩の事を、少し驚かせてみたくて……だから、こうしてサンタクロースの格好でのサプライズを思いついたのだ。
彼女と知り合ってから、1年と少し。
完全にそれを意識するようになったのは、ほんの2ヶ月ほど前の運動会の時だった。
――彼女が、愛しい人だから。
その驚く顔を見たくて、それを行動に移したのだ。
だからそっと、彼女の部屋のドアに忍び寄る。
クリスマスというのは、実に馬鹿馬鹿しいものだと茜華は溜息をついた。
浮かれている人達の脇を、単にお祭り騒ぎがしたいだけなのだなと通り抜けて、茜華は普段と何も変わらない様子で、夕食の買出しに出る。
店に並ぶのは、そろそろセールのシールが張り始められたチキンやオードブルたち。
安く買えるのは良いことなのだが、店は所構わずにいちゃつきながら買い物するカップルばかりで。目障りだと少しイライラしながらも、目的の買い物を終えて帰路につく。
「……ん?」
鍵を出して視線を上げれば、ふと、そこには赤い服の人影。
あれは間違いなく自分の部屋。
サンタの格好なんてして、自分の部屋の前で怪しい動きをしている様子は、明らかに不審すぎる。
もしや泥棒だろうかと、背後からそっと足を忍ばせて近付けば……。
(「……リエン君?」)
ふと、その背中に見覚えがあるような気がして立ち止まれば、サンタクロースがインターホンを押す3歩手前くらいのポーズでなにやら呟いている。
「やっぱり、ここはメリー・クリスマス! ……かな。いや、それとも……」
ぶつぶつ呟いて、ぽちっとインターホンを押すリエン。でも、それに反応は無い。だって、茜華は家の中じゃなくて、彼のすぐ後ろにいるのだから。
「あ、あれ……?」
戸惑いの顔でもう1回。焦りの汗を浮かべてもう1回。
鳴らしても反応が無くて「ど、どうしよう」と呟いていたリエンは、ふと、後ろを振り返った。
視線が合う。
「あ、あれっ?」
ぽかんとした顔をするリエン。なにせ、茜華がそんな所から来るだなんて予想外だ。
「何してるんだ?」
戸惑っているリエンに茜華が問いかければ、リエンは汗を浮かべて苦笑い。
「いや、えーっと……め、メリー・クリスマス!」
どんな風に何を説明したものか。
頬をかきながら、とりあえずそう笑って誤魔化すリエン。それにつられるように、茜華もやれやれと苦笑するのだった。
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