●聖なる夜のお疲れさん
「バイト終わったら、余ったケーキくれるかもなー♪」
そんな瑞鳳の甘い声に誘われて、兇はケーキ屋のクリスマスケーキの街頭販売のバイトに借り出されていた。
プラカードを持っての呼び込み、購入者への粗品サービス、トナカイ姿に群がる子供達の相手……果てには、貴重な男手ということで、商品の搬入など当初、バイト内容に入っていなかったような仕事まで頼まれている。
そして、入った休憩時間。
そのころには、もう、兇は真っ白に燃え尽きたように、ぐったりと路地の壁によりかかっていた。
「ああ……俺、もうだめかも……」
誰もいないのを確認して、被っていたトナカイの頭をはずした。
汗を拭い、ふうっとため息を零す。
「お疲れ様」
と、渡されたのは缶コーヒー。
そこに現れたのは、ミニスカートのサンタ服を身にまとった瑞鳳であった。
「姐さん、ケーキのため、つっても……その前に挫けそうっす……」
ありがたくその缶コーヒーを受け取り、疲れたように兇はそう訴える。
「ハハ、男だろ! もう一息頑張ろな♪」
そう、瑞鳳は笑顔でそう元気付ける。
もう少しがんばれば、今日のバイトは終わりだ。
「あーい……ケーキのためにー!」
「おっしゃ、いい返事だ!」
二人は微笑み、しばらくした後、また仕事に戻った。
実はここだけの話。
本来は瑞鳳の分である仕事をこっそり、兇に回したために、兇の仕事量が倍になったのはいうまでもなく。
それに気づかず、兇は必死にがんばっている。
全ては、バイト後に貰えるだろう美味しいケーキのために!
「お前がいてくれて助かった。ホントありがとな、兇」
その瑞鳳の言葉がどこまで本気なのかは……本人と今宵生まれたとされる神様くらいだろう。
「姐さん、何か言いましたー?」
「さーてね♪」
二人の仕事は、もうしばらく続きそうである……。
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