●聖夜のキス
類が瑠流衣の手を握りしめる。瑠流衣も緩く握り返す。
そうして二人はイルミネーションに彩られた街を楽しげに歩いていく。
前々から、クリスマスにはちゃんとした恋人同士になるんだと決めていた。
初めてのキスは聖夜の夜にと決めていた。
そんな瑠流衣は、その目的を行う場所の大きなツリーに向かい、決心を固めていく。
目的の大きなツリーまで歩いていく間、少しの不安と少しの緊張。そうして繋いだ手から伝わる類の温かさ。そのどれも全てが瑠流衣の鼓動を早くする。
目的の大きなツリーの下。心臓のドキドキは最高潮。
そのドキドキを押さえるように、心友であるキノコヴィクトリアを定位置の頭からおろし、両手で握る。
少し視線を伏せてしまうのは、小さな不安の表れからかもしれない。けれども彼女は視線を上げ、真っ直ぐに類を見つめる。
「長瀬先輩……これからも、ずっと傍にいて欲しいな」
瑠流衣がはっきりと彼に告げる。
その後は、静かに目を閉じて彼の返事と、キスを待つ。
類からの言葉はなかった。
それがより一層彼女を不安にさせる。
もうだめなのかな。とか思ったとき、頬に感じた大きな手と、優しい声。
その声を聞くと胸が熱くなり、その言葉を聞いて胸が震えた。
「ああ、俺は瑠流衣を置いていったりはしない。ずっと一緒だぞ」
類の手からは彼女の頬の冷たさと、小さく彼女が震えている事が伝わってくる。
一生懸命に背を伸ばしている瑠流衣の頬を優しく包みこむと、そのまま類は少し身をかがめて口づけを落とす。
初めてのキスは聖夜に。
瑠流衣の小さな願いが叶った。
重なった唇から、互いの温もりや優しさが伝わってくる。
ほんの少し名残惜しそうに、唇が離れる。
「……大好き」
瑠流衣がゆっくりと目を開け、すぐそこにいる類に囁く。
瞳からこぼれ落ちた涙が、胸から溢れ出した幸せの欠片なのかもしれない。
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