遠座・繭 & 黒瀬・和真

●満天満地の星

 特別やることもなく和真は、結社でぼんやりとしたクリスマスを過ごしていた。
 繭もまた暇な時間を持て余していた。ただ何気なく結社に寄っただけだった。
 静かに扉を開けて、その向こう側に和真の姿を見つけた彼女は、一瞬びっくりしたもののはにかんだ笑みを和真に向けた。
 時間を持て余した二人、普段と変わらない何気ない会話を始めた。

「――夜景でも、見に行ってみない?」
「はい……是非、ご一緒させて……いただき、ますっ」
 それは小さな切欠だった。
 和真のふとした提案に、繭は嬉しそうな笑顔で頷いた。
 結社の扉の向こうは冷たい空気が頬をかすめていく。
 のんびりと歩き出す二人。
 和真が向かう場所がどこか分らない繭は、少しドキドキしながら和真についていく。
 さっきまでの退屈な時間が嘘のように、楽しい時間に変わっていく。

 和真の向かった場所はそれほど遠くはなかった。
「この丘の上から――綺麗な夜景が見えるんだ」
 小さな丘を登っていく。
「わ……このあたりが、一望できそうな……所です、ね……っ」
 登り切って、丘の天辺は小さな広場になっていた。その中でもとびきり良く夜景が見える場所に和真が繭を案内していくと、楽しげな声を上げる繭。
 和真のとっておきの場所に到着したとき、彼は軽く目をつむって小さな少年の様な笑みを浮かべる。
 繭はそんな彼の笑顔と、とっておきの場所を教えてくれたこと、それに時間を割いてくれた事に感謝していた。

 とっておきの場所。眼下に広がる幾千もの灯りがとても温かく感じる。
「――……あの、灯り一つ一つが、全部、今の僕らみたいな穏やかな気分で……今を過ごしてる、て思うと、とても幸せな気分になるね」
「はい……っ。来年も、今と同じ景色が……ご一緒に見られると……嬉しい、です……っ」
 和真の言葉に控えめな笑顔で頷く繭。
 交わす会話はそれほど多くはないが、二人で眺める街の灯りが胸を温かくするのが良く分かる。
 この灯りの数だけ、温かく穏やかに過ごしている人たちが居るかと思うと、それだけで小さな幸せがあふれ出てくる。
 だからまた来年も……一緒にみたいと素直に思える。

 静かな中、二人は笑顔を交わす。
 交わした言葉は多くはなかったけれども、穏やかでいて温かそれだけで充分だった。




イラストレーター名:汐ヶ原みずき