一之瀬・雅 & 神狩・焔華

●想いは…届く…

「……雪だな」
 ふと見上げれば、雅の頭上をひらりひらりと木々の合間から舞い降りてくる白い結晶。いつの間にか天気は雪になったらしい。薄暗い林の中では空も断片的にしか見えなくて、木々の合間を縫う様に走る風が冬の冷たさを伝えてくれていたが、雪を目にするまで天気には気づかなかった。
「違うな」
 何かを探し、木を見上げては結論づけて再び首を回らせる雅、ただその後を追いかける焔華。薄暗い林の中、好んで足を踏み入れる者もなく二人だけの静かな時間がそこにはあった。ただ、まだ求めるものは見つからなくて……。
「……これだ」
 呟きと共に立ち止まった雅の頭上、木の幹から生えるのは本来の葉とまるで違う形の葉を茂らせ幹に絡まる植物の姿。探していたものがそこにあった。

「『宿り木の実の下で愛をかわした二人は永遠の愛を得る』と言う伝説がある……」
 ようやく見つけた宿り木を見上げながら雅は言葉を紡いだ。
「……だから探したかった、お前と。もし見つからなかったら諦めるつもりだった。だけど……」
 言葉を続けながら歩み寄り、抱き寄せた焔華の温もりが伝わってくる。
「好きだ、焔華。お前の事が……お前で無ければダメなんだ」
「ほ……本当に私で、いいの……?」
 抱き寄せられた事かそれとも告白にか、驚いた表情の焔華へ雅の返す視線は真っ直ぐで。焔華はゆっくりと目を閉じた。白く曇る吐息が舞い降りる雪の間を上へと昇ってゆく。二つの唇が重なって、雪や風の冷たさなどまるで気にならないほど、溶け合うように傍に感じる温もりは温かくて。
「あ……」
 焔華が目を開けると風で揺れていた枝が隠していたのだろう、遠いイルミネーションの放つ光が林の中に差し込んでくる。少しだけ明るくなった林の中、すぐ側には雅の顔。もう逃がさないとでも言うよう雅に力強く抱きしめられたまま、焔華は頭上を見上げた。
 そこに変わらずある宿り木。おそらく雪が溶けて出来た水滴がついているのだろう、宿り木のつけた実がイルミネーションの光を受けて輝いていた。




イラストレーター名:笹熊田さんご