朝加・伊織 & 柊木・博雅

●scene2 Second Xmas

 想いは同じなのに。
 重ならない想い。

 冬の空気は夜になるにつれて、冷え込んでくるのは避けられない。
 博雅は、そんなことはすっかり失念していたから、黒いロングコートを羽織ったものの、薄着姿で待ち合わせ場所を訪れていた。
「今日は少し寒い、なー……」
 そんなことを言いながら、伊織の側によると、差し出されたのは手編みの白いマフラー。何だろうと考える間もなく、それは伊織の手によって、博雅の首に掛けられる。
「今日は寒いから、暖かくしてくださいね」
 普段よりも近い距離に照れながらも、伊織はにこりと博雅を見上げる。
 実は去年あたりから、ずっと気になっていたのだ。彼の首もとが。
 いつも寒そうだなと……それに、彼が自分にあまり頓着しないことも知っているから……勝手に心配して、迷惑かもしれないけれど。
「今年は……受験ですし。身体壊しちゃめーですよ」
 にこりと笑ってマフラーをかけ終えた伊織は、彼から一歩離れ、いつもの距離に戻る。
 あと少しで、博雅は卒業してしまう。
 高校生活で一緒にクリスマスを過ごすのはコレが最後だなと思うと、やっぱり少し寂しくてしんみりしてしまう。だからそんな気持ちを塞ぐように、悲しいことは口を出さずに微笑む。
 今日を大切にしたいから。
 伊織の微笑みを、博雅は見つめ返す。彼女は人の事ばかりで無理しがちだから、ついそれが心配になる。
 そんな風に考えていたら、ふと、自分がこの3月で卒業することを、彼女はまだ、もう1年学園生活が残っていることを思い出す。
 だから、彼はひとつ深呼吸した。

「……付き合ってくれるか? ……来年の、クリスマスも」
 結局、大事な事が言えずに終わってしまった言葉。
 ちょっと明後日の方を見て、人知れずため息をつく。
 でも、来年は卒業していてもせめて、約束ぐらいしておきたいから。
 発せられた博雅の言葉に、伊織は嬉しそうな微笑みを浮かべて頷いた。

 想いは同じだけれども、重ならない。
 でも、アナタがそこにいるだけで、嬉しいと思える。
 今日はこれから、どこに行こう?




イラストレーター名:水名羽海