●Lovers' holy nights
学校のクリスマスパーティーの喧噪から逃れて、使われていない教室に逃げてきた薬斗とジウ。
恋人同士の二人が、聖夜に二人きりで静かに過ごしたいと思うことは、至極当然なこと。
ひとつの机に腰を掛けて、普段と変わらない他愛ない会話を楽しむ。
……普段と変わらない事のはずなのに、どうして目の前にいるこの人と一緒だと、こんなにも話が弾むのだろう。
どうして、こんなに楽しいと感じるのだろう……?
そう感じているのは、2人とも同じだった。
「……ジウちゃん」
「? な、何でしょう?」
ふと、会話が途切れたその時、薬斗はいつになく真面目な表情でジウを見つめた。
戸惑いを覚えながらも、そう尋ね返すジウに、薬斗はそっとリングを取り出す。
彼女のために用意したシルバーリングを。
「これ、受け取ってくれないかい?」
どことなく、その顔がぎこちないのは、緊張と不安ゆえなのだろうか。
ジウは目の前に差し出されたそれに、そっと手を伸ばした。
触れて、受け取って……そのまま、指に通す。
そうして、嬉しそうに微笑むジウの姿に、薬斗はホッと安堵した様子で同じように笑みを返した。
クリスマスは二人にとって、クリスマス以上に特別な日。
彼と彼女がつきあって、1年目の記念日。
昨年のあの日から、もう1年も過ぎたのだ。
薬斗は笑いながら彼女の耳元で、「良く愛想を尽かされなかった」と囁けば、彼女は「本当のあなたを知っているから」と笑う。
その笑顔を見て、薬斗は思う。
この先、いつ自分が命を落とさないとも限らない。けれど、この女性だけは悲しませたくはない。だから、その為にならば、生に執着してみるのも悪くないかもしれないと。
その想いをジウは知らない。でも、ジウもまた思う。これからも、誇りを持って進んでいくことを。自分にできることを、できるなりに成していけば、きっと結果はついてくるだろうから……だから、彼と一緒に、歩んでいこう。
胸の内に思いは秘めて。
でも、誰よりも傍で一緒に。
2人だけの静かな聖夜は、そうして過ぎていった――。
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