●二つの猫だるま
そこはいつもと様変わりしていた。クリスマスだと言う事もあってか、ツリーが飾られていると言う意味でもいつもと違った景色ではあったが、目に付く物ほとんどが白い帽子をかぶり、足下に広がっているはずのモザイクでさえ靴跡のある場所にうっすら透けるのみ、一面を雪が覆っていた。
「わぁ。兄さん、沢山積もりましたね」
雪だるまが作りたいと兄を誘ってやって来た空は歓声を上げ「これなら充分雪だるまが作れそうです」と周囲を見回す。
辺り一面を白く彩る景色の中には、先駆者の偉業というか忘れ物が雪に埋まった状態で幾つか佇んでいる。やはり考える事は皆同じという事なのだろうか。
「普通のやつじゃつまんねぇから……猫だるま作らね?」
「あ、猫だるま良いですね!」
ただし、はしゃぐ妹の姿を眺めながら大地が口にしたのは、別に張り合う為ではなく物足りなさを感じたからだろう。空は兄の言葉に頷いて小さな雪玉を作り始める。
「俺が体の部分を作るから空は頭の方を作れ」
雪玉を転がし始めた妹の「わかりました」という言葉に小さく頷きを返して、大地も雪玉の制作に入った。白く立ち上る息が風に揺れる。
「……よし出来た。空は出来たか?」
「これぐらいで良いですかね?」
腰程まである大きな雪玉の回転を止めて顔を上げれば、返事を返す空の足下には胴体と比べて小さな雪玉が一つ。
「んじゃ、頭くっつけるぞ!」
OKを出した大地に持ち上げられ、雪玉は大きな雪玉の上に。
「雪だるまっぽくなってきたな」
頭を乗せて完成した身体部分を眺めながら、漏れる白い息はゆらゆらと上へ昇って行く。
「耳を付けないと」
「ああ、猫の耳を付けないとな。空、耳は任せた」
後は妹の言う通り最後の仕上げを残すのみ。
「おにぎりみたいに雪を三角にして……」
大地に任せられた空が両耳と目、髭と口を作って行く。
「猫だるまの完成です!」
空が離れれば、生まれたばかりの猫だるまが笑っていた。
「んー……何か物足りねぇな……」
それを眺めて微かに首を捻ったのは大地。
「なんだか寒そうなのでマフラーしてあげたいですね」
「じゃあ、俺のマフラー使うか?」
空の言葉に自分のマフラーを外すと猫だるまの首に回して。
「おお、良い感じだな」
猫だるまはこうして完成した。
「1つじゃ猫だるまが可愛そうだから二つ目作るぞ!」
「じゃあ、今度は私が体の部分の雪玉を作りますね」
話はここで終わらず、再び雪玉を作り始めた大地に続いて空が雪玉を作り始め。
「じゃあ、俺は頭の部分作るな」
妹の宣言に大地は雪玉を転がす勢いを弱めた。
「これにもマフラーをしてあげましょう」
2体目の猫だるま完成に要した時間は一個目よりもやや短く。空は自身のマフラーを外して完成した猫だるまへとかける。
「何だかさっきのよりも小さいのが出来ましたね」
「どっちも可愛く出来たな」
完成した猫だるまを眺めて感想を口にする二人。二人の前に二組目の仲の良さそうな兄妹は笑顔のまま並んで佇んでいた。
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