●恋人のわめく頃に 〜 聖夜編
去年はただの幼馴染だった、蛍と詩人。
でも、今年は違う。
なぜなら、二人は幼馴染でなく、彼氏彼女の関係になったのだから。
「うーちゃんっ、あのクリスマスツリー綺麗ーっ!」
しゅたたーと、蛍はツリーの元へと駆けていく。
「……蛍、ツリーを揺すらない」
ゆさゆさと揺する蛍に詩人はすかさず注意する。
「うーちゃんっ、あの風船欲しいーっ!」
「……蛍、少し落ち着きなさい」
ぱたたたーっと、今度は風船を配っているサンタの所へ。
その蛍の後をついていく詩人は一苦労だ。
とはいっても、少し嬉しそうなのは、紛れも無い真実で。
「うーちゃんっ、あの板チョコ欲しいーっ!」
風船を持った蛍は、今度はチョコレートを欲しがった。
「……蛍、走ると転びますよ、って聞いてますか?」
否、何も聞いていないと思う。80パーセントの確率で。
板チョコを貰って、さっそくはぐはぐと食べ始める蛍。
ちらっと、隣に居る詩人を見て、蛍は思う。
(「でも、うーちゃん、あんまりべたべたしてくれないから、つまんないー」)
心の中でしょんぼりしていると、何かひらめいた。
チョコから口を離し、にこっと微笑むと。
「えいっ」
詩人の頬にチョコを付けた。
「……?」
突然の蛍のその行為に詩人は首をかしげ、状況把握中。だが、詩人が状況を把握する前にそれは起きた。
「うーちゃんは頂いたーだようっ♪」
蛍はチョコを付けた頬の上にちゅっとキス。
「!!!」
言葉にならない詩人。
一方蛍は。
「あ、チョコ美味しい♪」
びっくりした詩人の顔を見て、満足げに持っていたチョコを食べている。
「あっ! あの着ぐるみ可愛いーっ」
更に、見つけた着ぐるみの元へと駆け出した。
残されるのは、しばし放心中の詩人のみ。
キスされた頬を押さえながら。
「……自分から仕掛けようと思ってたのに……!」
頬を染め、照れながらも、かなり悔しがっている様子。
「うーちゃん、こっちこっちーっ!」
痺れを切らした蛍が詩人を呼んでいる。
(「……ああ、やはり振り回されてる」)
そう思いながらも、詩人は蛍のいるところへと向かうのであった。
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