●沈黙の夜と夢
窓の外で雪が降っている。
ひとつふたつだったのが、今では数え切れないほどの、雪が降っている。
それを静かに見つめている者がいた。
花音だ。
自分の所属する結社の一室で、静かにその光景を眺めていた。
「……人ごみは、苦手なの」
遠くで賑やかな声と音楽が聞こえてくる。
苦手な場所は避けて、花音は静かな場所で今日という日を過ごそうと思っている。
「でも、ひとりは眠くなる、なあ……」
ふわふわと降る雪は、次第に花音を眠りの世界へと誘っていく……。
がらがらと音を立てて、戸が開く。
そこに現れたのは碧。
彼もまた、ひとりの方が楽だと思ってきたのだが、どうやら先客がいたようだ。
しかも、先ほど音を立てて戸を開けたのにもかかわらず、それでも起きなかったところをみると、かなりぐっすり眠っている様子。
(「夜色の……確か名前は……」)
と、碧は彼女の名前を思い出す。
そして、この部屋が少し寒いのに気づいた。
(「………」)
碧は眉をひそめて心の中で呟いた。
(「……全く。これで見なかったことにして、風邪ひこうと関係はないけど。……なんとなく。まだマフラーあるし、問題ないか」)
自分の着ていたコートをそっと、花音の肩にかけてやる。
「……………おまけ」
小さく呟いて、側に暖かいおしるこの缶も置いておく。
碧は静かにその部屋を後にした。
数時間後。
「……んー…」
花音は眠そうな瞳を擦って、首をかしげた。
寝る前になかったものが、ここにある。
暖かいコートにおしるこの缶。
「……このコート、誰のだろう。……寒く、ないのかな」
もう一度、首をかしげて、机に置かれた缶を手にする。少しぬるくなった缶が、何故か暖かく感じられた。
気がつけば、外の雪はやんでいる。
花音もまた、コートと缶を手に、その部屋を後にしたのであった。
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