●友情のメリークリスマス
篠が学園に入学してきたのを知ったのはつい最近だった。
明るくてノリがよくておおらかで……。
その裏に、何かが隠されている事に気がつかない程、自分はバカでもない。だけど、そんな事は自分にとってとるに足らないたいした事ではないから。
「ほんっとにいいの?」
確認を込めた篠の言葉に。
「ああ、約束したからな」
久遠はある戦いで怪我をした篠と約束をしていた。その怪我が完治したら、好きなだけ奢ると。
そして、今。
久遠はちょっと……後悔している。
『好きなだけ奢る』と言った事に。
「ここのパフェって、とっても美味しいんだよ」
うっとりした表情で篠は、パフェのクリームを、スプーンですくい、口に入れる。
「知ってる?」
「いや、はじめて聞いた」
「だろうねー、こういう店に来ない顔してるし。でも、一つは覚えておいて損はないと思うよ。恋人ができたときに甘味処に案内できなくっちゃ、男が廃るよ」
うんうんと嬉しそうに次々と甘いお菓子を口の中に入れていく。
「あ、ああ……そうだな……」
つうっと久遠の額から汗が落ちた。
前々から篠がスイーツ好きで、主食にしているくらいだと聞いていたが……これほどの量を嬉しそうに食べていく姿にじわじわと恐怖を感じている。
ちなみに今日はクリスマス。
男同士という寂しい状況だが。
「ああ、幸せだよ〜」
そういって瞳を細め、幸せそうな笑みを見せる篠の姿に、まあいいかと思う久遠。
もちろん、久遠も篠に承諾を得てから、ちょこちょことお菓子を貰っている。
それだけでお腹一杯な気分になるから、驚きだ。
「それにしても、よく入るな……」
「ん? 何か言った?」
「いや、何も」
クリスマスはカップル達だけのものではない。
こんな友情もあっても、きっと楽しいと思うから。
これからも何か、食べにつれていってやろう。
「俺が破産しない程度にな」
「ん?」
首を傾げる篠に久遠は苦笑を浮かべる。
果たして、今日の金額はどれだけになるだろうか。
そして、今持っている所持金で間に合うだろうか。
その結果は、二人の胸の中に思い出として残るだろう。きっと、ずっと。
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