水瀬・桐花 & 秋桜・獅輝

●来年も一緒に見ようねv

 かんかんかんと、二人の足音が響く。
 ぎっという鈍い音と共に屋上への扉が開かれる。
 外は夜。
 だが、こんなにも明るく感じるのは、きっと。

「ねえ、みてみて! 雪よっ!!」
 はしゃぐ桐花を追うように、獅輝もやってくる。
 どうやら、今年も無事、ホワイトクリスマスになったようだ。
 嬉しそうに笑みを浮かべる桐花の姿を、獅輝は眩しそうに眺める。
 と、そのとき。
「きゃっ!!」
 小さく叫んで、桐花は屋上の床に倒れこんだ。

「いたた……」
「桐花サン、大丈夫?」
 よくみると、床には数センチではあるものの、雪が積もっている様子。
 どうやら、雪のせいで桐花は転んでしまったようだ。
 獅輝は自分のハンカチを取り出し、桐花の足に巻いてあげた。
 捻挫したらしく、桐花は痛そうな表情を浮かべている。
 腫れてはいないようだが……。
「大丈夫? 痛くない?」
 心配そうな獅輝の声に、桐花は静かに頷いた。
 ひょいっ!
 突然、桐花の体が宙に浮いた。
 いや違う。
 獅輝が桐花を抱き上げたのだ。まるで騎士が、異国の姫君を抱きかかえるように……。
「ちょっ……何するのよっ!? 1人で歩けるってばっ!!」
 桐花は口だけで、抵抗する素振りは見せていない。
 獅輝はそのまま、屋上の柵の方へ歩いていった。
「俺からの2つめのクリスマスプレゼント」
 町を見下ろせる場所に、獅輝は桐花をつれてきたのだ。
 キャンドルが灯る大きなクリスマスツリー。
 そして、トナカイや雪だるまなどのイルミネーションも見える。
 二人の目には、それらがまるで自分達を祝福しているかのように映っていた。
「ぁ……。綺麗……!」
 嬉しそうな桐花の声に、獅輝は顔を綻ばせる。
「ここが一番綺麗に見えるんだ!」
 二人の時間は、まだ始まったばかり……。




イラストレーター名:向日葵