●HolyNight−今宵、貴女に光の海を−
「す、すごい人ですの」
クリスマスの夜、夜景を楽しもうと展望室を訪れた2人が目にしたのは、行き交う人、人、人。
大勢の人で混雑するその様子を目にして、セラフィナと弼は、思わず顔を見合わせた。
「こんなに凄いとは……」
そういえば、ここは確か雑誌でガンガン紹介されているデートスポットだったような……。
このくらい混んでいても、ある意味仕方ないのかもしれない。弼はセラフィナの手を引きながら、何とか夜景を見える場所が無いだろうかと探す。
――お姉様は、あと少しで卒業。
そうしたら、今までのように、いつも一緒という訳にはいかない。
ちょっと悲しいけど、でも。
きっと2人で綺麗な夜景を見たら、良いクリスマスプレゼントになるはず――。
そう考えていたセラフィナだけれど、見えるのは人の背中だけ。
もしかしたらこのまま、この混雑で夜景は見れないのだろうか……?
「あ。あそこ、空きそうよ」
じわっと、セラフィナの瞳が潤んだ時。弼がとある一点を指差す。
夜景の見える窓際を離れていく1組のカップルと入れ替わりで、2人はその場所に滑り込むと「やったね」と笑い合う。
窓の外は、きらきら、きらきら、綺麗な光達が輝いている。
思わずぺたっと窓に両手をついて、セラフィナは「ふわぁ……」と歓声をあげる。
溢れそうなくらい沢山の光。
それは、とても綺麗で……。
「む〜……」
でも、ちょっとだけ不満が1つ。
それは手すりだ。
ちょうど目の高さくらいに作られた手すりが、容赦なくセラフィナの視界を邪魔する。
「うう……。あのね、お姉様。抱っこして欲しいですの」
肩を落とし、そうセラフィナが求めれば、弼は「仕方ないですね」と笑ってセラフィナを抱き上げた。
途端に、ぐんと高くなる視界。
まるでさっきとは全然違う光景じゃないかと思うくらい、綺麗に見渡せるようになった夜景を眺める。
「どう? 見える?」
弼に大きく頷いて、お礼を言うセラフィナ。その時、弼の顔が本当にすぐ傍にあるのに気付いて、ちょっと照れ恥ずかしく赤くなる。そんな彼女を、弼は最初と変わらず……いや、それ以上に優しく抱いてくれる。
「……あのね、お姉様」
それは嬉しいけど、でも、もう少ししたら、離れ離れだと思うと心が曇る。
今度はちょっぴり寂しくなってしまいながら、セラフィナは問いかけた。
「お姉様……卒業しても……フィナに会いに来てくれますか……?」
じーっと見上げる瞳に、弼は、そっと微笑みながら口を開いた。
――綺麗な夜景を見下ろしながら、そっと言葉を交わす。
それは、2人だけの大切な時間。
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