神代・翔悟 & 藤咲・赤音

●不意打ちのキス

 クリスマス・イヴの夜、翔悟と赤音はパーティを抜け出して、屋上を訪れていた。
 ドアを開けた瞬間、2人を夜の冷気が包み込んで。吐き出した息は、あっという間に真っ白になる。
「ん……やっぱり、寒いね」
 そう呟くと、翔悟はそっと赤音の肩を抱き寄せた。
 体が触れあう感触に、赤音の心臓は飛び上がる。ばくばくと物凄い速さで鳴り続ける胸を押さえてみるが、なかなか静かにならない。
「……あったかい」
 心臓が落ち着かないまま、けれど赤音はそう零す。こんなに冷たい夜空の下にいても、それを感じないほどに、今、とても暖かい。
 だから赤音は彼のことを振り返って……そっと、触れる。
 唇で、彼の頬に。
「っ、あ、えっと、あ、赤音ちゃん?」
 その出来事に、翔悟はみるみる真っ赤になっていく。今、触れたものがな何だったのか……キスを、されたのだと気付いたら、あまりに驚きに声が裏返りそうなほどだ。
 けれど、よく見れば。赤音もまた、翔悟と同じくらい……あるいはそれ以上に赤くなっていて。俯いている彼女の姿を見ていたら、不思議と落ち着きが戻ってくる。
 そう、赤音にとっても、これはとても勇気が必要なこと。そうすれば喜んでくれるだろうと友達から聞いて、思いきって試してみたけれど……ドキドキが止まらなくて、翔悟の顔を直視できないのだ。
「……赤音ちゃん、そんなに俯いちゃってたら顔が見えないよ。こっち見て?」
 そんな赤音の様子に、翔悟はそう優しい声をかけた。その顔には笑みが浮んでいる。そう……悪戯心の宿った笑みが。
「ん……」
 そっと顔を上げた赤音を覗き込むと、翔悟はそのまま、彼女の唇にキスをした。さっきのお返しだと笑う翔悟に、赤音は慌てふためいて……恥ずかしさのあまり、もう、もう何もかもを直視できなくて、そのまま翔悟の胸に顔をうずめた。
「……えへへ、赤音ちゃんとこういう日をこうやって一緒に過ごせるのって、凄い幸せ」
 そんな可愛い彼女の姿に目を細めて、翔悟は両腕を彼女の背に回す。
 伝わるのは、互いのぬくもり。
 聖なる夜の下、2人だけの時間を、そっと過ごす。

「……あ」
 ふと、我に返った赤音は、時計を見て気付いた。
 既に針は24時を過ぎ、今は12月25日。そう、翔悟の誕生日だ。
「翔悟先輩、お誕生日おめでとうございます。……これからも、ずっと赤音はお傍についております」
「ありがとう、赤音ちゃん」
 お祝いの言葉を嬉しそうに受け取った翔悟は、えへへへっと笑いながら、再び赤音を抱きしめる。
「……これからも、ずっと、ずっと一緒だよ」
 こくりと頷き返す赤音を感じながら、翔悟はそのまま、とてもとても大切そうに、赤音を抱きしめ続けるのだった。




イラストレーター名:志岐 雷