●プレゼントはマフラーと……。
ゆっくりと雪が舞い降りる……。
その雪を眺めながら、太郎は隣に居るエルレイを見た。
彼女はあまり体力がある方ではない。
太郎は、すぐにエルレイが疲れていることに気づいていた。
だからこそ、ベンチをすぐさま見つけ、そこにエルレイを座らせた。
「そこのベンチで休もう」
「はい」
静かに微笑むエルレイに太郎も優しげな笑みを返す。
彼の手には魔法瓶。休憩するだろうと、予め用意してきたものだ。
魔法瓶の中には、暖かくて甘いココアが入っている。
「ほら」
コップに注いだ暖かいココアの、白い湯気が太郎の頬に当たった。
その瞬間、太郎はあることを思い出す。
「ちょっと待て。確か、猫舌だったな?」
「あ、はい。そうですが……」
エルレイに渡そうとしたコップは、太郎の手元に戻る。
「太郎様?」
太郎はそのまま、コップのココアを一口飲んだ。
「ん、大丈夫そうだ」
でも、気をつけろよと、太郎はそのままコップをエルレイに渡す。
「ありがとうございます、太郎様」
嬉しそうにコップを受け取り、ふーふーしてから、こくりとエルレイもココアを飲み始めるのであった。
「エルレイ」
ココアを飲んでいるエルレイに、太郎は声をかけた。
「あ、太郎様も飲みま……」
飲んでいたココアから口を離すエルレイに、暖かいコートがかけられた。
その暖かさは、太郎のぬくもり、優しさが込められていて。ココアを飲み干したエルレイは、前から用意していたものをそっと取り出した。
「ね、ちょっとだけ、目を閉じて……?」
不思議そうな顔をしながらも、太郎はエルレイに言われたまま瞳を閉じる。
ふわりと、暖かいものが首にかけられた。
「マフラー?」
「だって、この前、マフラー欲しいって言ったでしょう?」
くすりと微笑むエルレイに、太郎は嬉しそうな笑みを浮かべる。
(「あのときの言葉、覚えていてくれたのか……」)
「ありがとう……」
太郎は感謝の言葉と共に、そっとエルレイの頭をなでていく。
エルレイも嬉しそうに微笑んで、太郎にかけたマフラーをくいくいと引っ張った。
「ん?」
頭をなでられて嬉しいエルレイが、もう一つのプレゼントを太郎に渡す。
太郎の頬に重ねられる唇。雪降る夜の甘いキス。
雪はまだ、止む気配がない。
音もなくゆっくりと、地面に落ちて降り積もっていく。
ゆっくり、ゆっくりと。
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