島宮・火蓮 & 篁・夜月

●撃敵ビフォーアフター

 たくさんの拍手を受け、舞台は無事に幕を下ろした。

 パーティ会場でアドリブ劇を繰り広げた火蓮と夜月は、喧騒を離れて一息ついていた。
 火蓮の役どころは、子供達に夢を与えるウサ耳のサンタクロース。一方夜月はその敵役で、でかでかと『大魔王』なんて書かれたマントを羽織っている。
 どちらも、役になりきって全力投球。真剣勝負を繰り広げて、ちょっと疲れたけれど、でも2人はそれ以上の充実感に満たされていた。
「ふー、これを下ろしたらスッキリするね」
 火蓮の足元には大きな白い袋。サンタさんが担いでいるアレである。中は勿論、子供達へのプレゼントでいっぱいだ。
 ……全部ニンジンだけど。
「お前さぁ、こんな大量にニンジン用意してどーすんだよ。何に使うんだよコレ」
 ずっしり重そうなそれを、夜月は溜息混じりに眺める。
「皆に配って歩けばいいじゃない。1本ずつでも、皆に配ればすぐなくなっちゃうわよ♪」
「誰が受け取るんだ? っていうか俺も配るのかよ!?」
 当然とばかりに言う火蓮に抗議の視線。でも火蓮は意に介さず、にっこり笑顔で袋を開けた。
「そんなの無理矢理渡しちゃえばいいの。ほら、ノルマは半分の50本ね!」
「なんという押し売り……」
 はあ、と溜息をついて、私物のぬいぐるみを手に取る夜月。僕もう疲れたよと呟けば、そのつぶらな瞳が癒してくれる……ような気がしなくもない。
「なによもう! それとも、何? 一晩で全部処分する良い方法でもある?」
 頬を膨らませる火蓮に、夜月は言った。至極当たり前だろうという顔をして。
「普通に料理に使えばいいだろう。ミネストローネとかさ」
「あ、いいわね! 美味しそう。勿論あなたが作るのよ♪」
 なるほどと手を打つ火蓮。そのまま夜月を見れば、まあそうなるだろうと思ったよと、言わんばかりに立ち上がった。
「そんじゃ、食材買い出しだな」
 あと必要なのは、トマトにキャベツにベーコンに……指折り数えてマントを翻す夜月を、火蓮もすぐに追いかける。
「しゅっぱーつ! おー!」

 今日は、クリスマス。
 はしゃいで、とても楽しくて……そんなクリスマスの夜にぴったりな、美味しいミネストローネを目指して、2人は次の戦い(?)に向かうのだった。




イラストレーター名:羽月ことり