●きみのて
手袋をしていない蜜琉は、凍える指先にそっと息をを吹きかけた。
指先は、今日のこの日のために、綺麗なピンクのネイルカラーで彩られている。寒くないと言えば嘘になるけど、でも一緒にいられる喜びが、そんなもの吹き飛ばしてくれそうな気がした。
でも、蜜琉から貰った手袋をしていた良将は、彼女の様子が気になって。手を繋ごうと片方を外す。
その拍子に、いつもつけていた指輪が抜け落ちて、そのまま手袋の中に残った。
「嵌めてみる?」
「いいの? 大事なものじゃないの?」
手袋から指輪を取り出すと、軽い口調で蜜琉に渡そうとしたのだが、その動作を途中で止めると、そう尋ね返した彼女の右手の薬指に、そっと嵌めた。
左手にじゃなかったのは、付き合い始めだからという小さな遠慮。でも、右手に嵌められた指輪に、蜜琉はとても嬉しそうな笑みを浮かべる。いつもこの指輪をしていたのを見ていたから、とても大事なものなのだろうと思うのだけど、それを指に嵌めてもらえて、何だかとても満ち足りた気分になる。
「近くにいたいんだ」
「あたしも、良将と一緒よぅ」
見えない先の約束で重たくなるよりも、今一緒に、隣に居られることにとても満たされて。これ以上の幸せは無いのではないだろうかと、そう良将は思うくらい。
その言葉に蜜琉は微笑むと、自分も同じ気持ちだと答える。
先の事なんて分からない。けれど、こうやって一緒に過ごしていけたら物凄く嬉しい。
そんな彼女の様子に、良将が蜜琉の手を取る。
ぶかぶかの男モノの指輪がはまった華奢な指先を、そっと、傷つけないように……自分の指で、絡めてしまおう。
このまま、包み込んでしまおう。
握られた指は温かく、とても心地いいから、蜜琉は思わず微笑んで。そっとその手を握り返した。
そのまま互いの額をくっつけて、とても幸せそうに笑いあう。
出会えたことに。
一緒に過ごせる時間に。
そして、これからもずっと一緒にいられるように。
全てに喜びと感謝を。
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