●さわって、かわって
外は一面の銀世界。
ここはひとつ大きな雪だるまを作りたくなるのが心情。
良と小織も雪の誘惑には勝てず、寒いのを承知で二人は銀世界へと飛びだした。
しんしんと雪が降る中、二人は夢中で雪玉を転がし、大きな雪だるまを作っていく。しかしその作業は完成一歩手前で、降ってきている雪によって阻まれる。
胴体と頭をくっつけて、高い鼻に、愛想の良さそうな口元。そうしてちょっといびつな目さえ作ってしまえば、とても愛嬌のある雪だるまができあがるのだけれども。少し休憩。
「冷た〜」
良がびっしょりと濡れた手袋を手から外し、ぶらぶらと手をふってみる。すると頬に何かひんやりと冷たいけれども、どこか心地よい感触に、ほんの少しだけ目を瞬いた。
「あったかい」
頬の感触がする方に視線を送ると、小織がいたずらっ子の様に笑いながら、自分の頬に彼女の冷たくなた手を当てているのが分かった。
そのまま無言の時間が、ほんの少しだけ流れた。
と、次第に小織の頬が赤くなってくる。
先日の良からのキスをされた出来事を思い出して、しまったから。でもその出来事はあまりにも突然と一瞬だったことが残念だった。
だから今日は仕返し……。
大きな雪だるまにもたれかかり、そのまま良の唇に自分の唇を重ねようとする。しかし初めての経験と緊張から、うまく事は運ばない。
――――――――ベチャっ!!!
大きな物音。
小織の重みで完成まで後一歩だった雪だるまが雪崩れ、小織は哀れ雪の中に倒れていた。
一瞬の出来事で何が起こったか分からず目を白黒させる小織が、ゆっくりと起き上がる。
「あはははははっ」
小織の可愛い笑い声が響く。雪だるまが壊れたことは残念だったけれども、何だかおかしくて笑ってしまった。
そのまま雪を払いながら立ち上がると、良のすぐ側にいき雪だるまが大破したことによって雪がついてしまった眼鏡を取り外す。
そうしてそっとつま先立ちになって…………。
重なった二つの影。
見ていたのは壊れてしまった雪だるまだけ。
さわって、かわって。
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