百鬼・祐平 & 海音・蓮見

●俺の暖かさ、君に分けてあげる。

 クリスマスイヴの日、パーティ会場を出た祐平と蓮見は、薄闇に包まれた道を歩いていた。
 はらはらと、舞うのは淡い粉雪。
 いつしかそれは、うっすらと地面を覆い隠している。
(「綺麗やなー……」)
 雪の上に、刻まれる足跡。
 祐平は、すぐ前を歩く蓮見の姿に、思わず見惚れていた。
 いつもとは違う、ドレス姿の蓮見。それは彼女の雰囲気にとても似合っていて……ただただ純粋に、綺麗だなと、そう思う。

 でも。
 そっと肩を縮めて震わせる姿は、はかなげで。
 放っておいたら、今にも壊れてしまいそうな、そんな微かな不安も感じて。

「……蓮見さん、これ」
 祐平はジャケットを脱ぐと、そっと彼女の肩にかけた。
「寒いんやったら、何時でも自分を頼ってくれたらええさかい」
「それでは祐平さんが……」
 その動作に、蓮見は首を振った。上着を脱いだ自分の姿が、それ程寒そうに見えたのだろうか。このくらい大丈夫だと笑って応えようとして……その途中で、くしゃみが1つ。
「はは……」
 頬をかきながら照れ隠しのように笑って。でも、蓮見が寒そうにしている方がもっと問題だからと、上着を決して取り戻そうとはしない。そんな彼の様子に、蓮見は仕方ないといった様子で笑い、彼の好意に甘えることにする。
「……そういえば、最初に会った時から、もうすぐ1年になるんやな」
 ふと祐平は思う。蜘蛛童に関わる依頼を受けて……鋏角衆へ転じる瞬間を目撃して。あの日からもうすぐ1年なのだと思うと感慨深い。
 しんみりと思い返す祐平の姿に、蓮見は「珍しいですわね」と呟く。
「そか? ま、たまにはしんみりしたくなるものさ〜」
 クリスマスも大勢でわいわいやるより、少人数で過ごす方が好きなんだと笑う祐平に、蓮見は新たな一面を見ましたわと笑み返す。
 その後は、もう、空気は元通り。
 あまり空気が重くならずに済んで良かったと内心思いつつ、祐平は伝え忘れていた言葉を告げた。
「メリークリスマス、蓮見さん」
 そう笑ってから、ふと「これからも運命予報頑張ってな」と付け加える。
 自分たちの戦いが戦場でゴーストと戦うことなら、彼女たちの現場は教室だ。
 決して直接ゴーストと戦うことは無い。でも、違う場所にいても、彼女たちもまた、彼女たちなりに戦っているのだということを知っている。その事を、決して忘れたりはしない。
「ありがとうございます。祐平さんも、お気をつけて」
 だからこそ出た祐平の言葉に、蓮見は同じようにメリークリスマスと返しながら、微笑んだ。

 蓮見と別れて一人になった帰り道、祐平はふと空を見上げる。
(「姉さん……俺は今こうして生きているよ。これからも大変だろうと思うけど、生きて、生きて色んな事、姉さんより体験してみるよ」)
 それが、きっと報いなのだろう。
 凍えそうな冷たさを指先に、でも、ほのかに残るぬくもりを、胸に。
 感じながら、祐平は雪の舞う夜道を歩き続けた。




イラストレーター名:夜神紗衣