●恋ひ恋ひて 〜銀雨の夜に〜
何度も何度も何度も繰り返すのは、今日みてきた景色の話。
昼間は江ノ島を回り、夕暮れ時からはイルミネーションを見てきた。
海が綺麗だった、イルミネーションも綺麗だった。同じことを何度も言い返すぐらい、とても楽しい1日。
その最後の締めくくりとして、二人は小さな丘に向かって歩いていた。
星図板と天体望遠鏡を手にし、まだ見えるというこぐま座流星群を見るために丘の天辺を目指して登っていく。
天体観測自体、デートには不向きかもしれないが、二人にはそんなことは関係なさそうで、観測自体もまた楽しいクリスマスデートのうちの一つ。
沙那が星空やイルミネーションがすきだと笑顔で話すと、天文部所属の矜恃はそんな小さなことでもうれしくて、笑みをこぼしながらそっと沙那の頭を撫でた。
「……あ」
遊歩道で薄く積もった雪に足が取られてしまう沙那。矜恃は転ぶ前に沙那の手を取り、彼女を労るようにしながら、先を急ぐ。しばらくいけば、目指していた丘の頂上にたどり着く。
向こうの方に鎌倉の街の灯りが見えて、澄んだ空気の中街の灯りが揺らめく。
その灯りよりも緩く金色の満月が、辺りを照らす。
その下にビニールシートを敷き沙那を座らせると、矜恃は天体望遠鏡の準備にとりかかる。そんな彼の様子を見ながら、沙那は楽しそうに星座板を冬の空に合わせていく。
北の方角に向かい、北斗七星から北極星を見つけると、その下にひしゃく型に伸びる星座。それがこぐま座。流星群の幅射点はひしゃくの先辺り。出現率は低いものの、流れる速度が遅い上に、比較的明るいから、運がよければ見られるかもしれない。
後は運に任せて待つだけだから、準備が終わり隣に座った矜恃に沙那がマフラーを掛ける。オフホワイトの長いそれは、二人で巻いても十分に足りる。
また他愛もない話をしながら、のんびりと流星が流れていくのを待つことにする。
ほんの少しできた会話と会話の間の沈黙。
ほんのりと頬を赤く染めた沙那がうれしそうに矜恃を見上げる。そんな彼女が愛しくて、矜恃は彼女の頬に手を添えてそっと口づけをひとつ。
軽く触れるだけの口づけの後、矜恃は沙那の眼鏡を取り、彼女の身体をきつく抱きしめる。
沙那も矜恃に答えるように、彼の身体を抱きしめ返し、口づけを返す。
近い距離の二人、彼の耳元で彼女が囁く。
「……大好き」
小さな囁きだが、大きく胸を締め付けるには十分。
そんな二人の頭上に、流星がひとつ流れゆく。
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