白岸・衛 & 蜜月・杏奈

●1周年のX’mas

 ウェディングケーキのようにケーキで出来たクリスマスツリーの前は、早くも数人の参加者がトッピング用のフルーツなどを手に集まり始めていた。この日はクリスマスパーティーの日、パーティー会場と化した二人の居る教室もまた賑やかでどちらを見ても参加者の笑みに溢れている。
「あの、似合うかな?」
 他の参加者に触発されたのか、サンタ服を着て参加した杏奈はツリーの方を眺めていた衛へ声をかけると、頬を染めながら長めのスカートを軽く摘んで少し俯きがちに視線を送った。  
「ぁ、ええ。とても似合ってますよ」
「ありがとう」
 やはりこちらも何処か照れながら返される答えに杏奈の表情が輝く。
「去年のXmasもお菓子を作ったよね」
「ブッシュ・ド・ノエルですね、あの時も皆さんで一つの大きなケーキを作ったんでしたね」
 照れを隠す為なのかそれとも単に思い出したからなのか、口から出たのはそんな言葉。目を閉じれば二人の景色だけが一年前へと遡る。

「蜜月さん。アドリアーノに入る前から、好きでした。僕と付き合って下さい」
 花束と共に差し出されたのは真摯な告白。
「……え? わ、わたし……? あ、あの……それじゃ、お友達って言う事で……良いかな?」
「友達か」
 頬に手を当て真っ赤になりながら杏奈が返した言葉に肩を落とす衛。当時の衛の解釈が勘違いだった事は、目を開けてみればすぐにわかる。初々しいとは言え互いを見る目は友達に向けたものではないのだから。

「それにしてもこのケーキおいしいですね」
 談話するうちにいつしかケーキのツリーは完成し、パーティーは思い思いに切り取ったケーキを食べる参加者で溢れていた。
「こっちもおいしいの。ほら」
 そんな中、ケーキを口にして笑みを浮かべる衛へケーキをすくった杏奈のスプーンが差し出される。
「本当ですね……って、これって間接キスじゃ!?」
 衛が事実に気づいたのはありがとうございますと差し出されたケーキを食べて感想を口にした後の事。顔を見合わせて顔を赤らめる二人だったが、立ち直ったのは衛の方が早く。
「僕たち付き合い始めて丁度一年なんですね。これからも、よろしくお願いします。ぁ、杏奈さん」
 どことなく緊張しながらも名前で呼ぶ事に成功し、衛は密かに拳を握りしめる。
「杏奈さん、冬休みの予定とか決まってますか?」
 もっとも杏奈の方がこのことに気がついたのは2度目に呼ばれた時だったのだが。
「名前で呼んではダメでしょうか?」
「ううん、全然そんなことないの」
 一瞬きょとんとした表情をし、俯いて黙ってしまった杏奈へ不安げに問いかける衛だが、杏奈は慌てて首を横に振り衛の心配を打ち消した。
「杏奈さん、この後、良かったら家によって貰えますか? その、渡したい物がありますので……」
 返ってきた答えに安堵して衛が小声で続けた言葉に、赤い顔をしたままの杏奈は小さく頷く。相変わらず賑やかな会場の片隅、二人だけのクリスマスがそこにはあった。




イラストレーター名:秀翠